ロンドンのトラファルガー広場に並べられた1500足の子供の靴。地球環境の変化に伴う生物の絶滅に抗議するため、コロナからの経済回復において環境に配慮した回復策を求めている。著者の小林武彦氏は「現在、地球は生物の大量絶滅時代に突入している」と指摘する(写真:ロイター/アフロ)

 男性81.41歳、女性87.45歳(2019年)と平均寿命の過去最高を更新し続けている長寿大国、日本。第1次ベビーブームに生まれた「団塊の世代」の約800万人が75歳以上の後期高齢者となる2025年も近づき、年金、医療、介護にかかる費用の財政圧迫や労働人口の不足などが懸念されている。

 そんな中、医療や介護を不要とし、自立した生活を送ることができる「健康寿命」や「抗老化」技術の研究開発に注目が集まっている。『生物はなぜ死ぬのか』を上梓した小林武彦氏(東京大学定量生命科学研究所教授)に、老化や細胞が死ぬことの意味、老化に抗い若返ることは可能なのか、抗老化研究の現在について話を聞いた。(聞き手:関瑶子、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に小林武彦さんの動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください。

──「現在、地球は生物の大量絶滅時代に突入している」と本書の中で書かれています。仮に現在の地球環境が継続したまま人間が地球上からいなくなった場合、どのような生き物が生き残り、また支配的な存在となるのでしょうか。

小林武彦氏(以下、小林):現在、地球に存在する推定800万種の動植物のうち、少なくとも100万種は今後数十年以内に絶滅の可能性があります。このペースは地球史上最高レベルと言えます。

 もし人間だけが絶滅したら、地球は平和になるでしょう、というのが私の答えです。人間は今まで必要以上に自然に手を加えてきたので、それがなくなれば、むしろバランスの取れた生態系が構築されるのではないでしょうか。

 一方で、既に人間は地球が元に戻れないくらい破壊してしまっているのではないか。だから急に開発を止めたとしても、元に戻るのには相当時間がかかるか、もう元に戻らないのではないか、という意見もあります。人間ができることは、責任を持ってできるだけ地球環境を元に戻す努力をしていくか、あるいは完全にコントロールしていくかのどちらかだと思います。

──自然環境を元に戻す努力をするか、完全にコントロールしなければならないという「選択」が人には必要だということですが、完全に自然環境をコントロールすることは可能なのでしょうか。

小林:完全に自然環境をコントロールするのは難しいでしょう。しかし、もともと自然にあるものを獲るのではなく、自分たちが食べる分は自分たちで作っていくなど、我々が大きく負荷をかけている部分に関しては改善してコントロールする、減らしてしまったものを元に戻すということはある程度できるのではないでしょうか。

──細胞は、効率良く増えるものが「選択」的に生き残り、また「変化」が起こることでいろいろな細胞ができ、さらに効率良く増えるものが生き残る「変化と選択」が繰り返されてきて、生物は進化してきたと本書の中で述べられています。仮に変化と選択が起こらなければ、やはり生物は環境に適応できずに絶滅してしまうのでしょうか。