2025年8月より高額療養費制度の自己負担限度額を引き上げる政府方針は、全国がん患者団体連合会や日本難病・疾病団体協議会などによる反対申し入れによって、長期治療が必要な患者負担を軽減する「多数回該当」の上限額引き上げを見送ることになった。しかし、それ以外は決定通りとなる見通しである。
高額療養費制度見直し議論の出発点は「少子化対策のための財源確保」
そもそもこの制度を見直す方針は、23年に閣議決定した「こども未来戦略」*1で、少子化対策の財源に社会保障制度の歳出を見直すことから出てきたものだ。
*1 「こども未来戦略 ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」
その後3年間を集中取組期間として「加速化プラン」を作成し、その中で「国民的な理解が重要である」としながら「既定予算の最大限の活用等を行うほか、2028年度までに徹底した歳出改革等を行い、それによって得られる公費節減の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用」し、「歳出改革については、『全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)』における医療・介護制度等の改革を実現することを中心に取り組んで、これまでの実績も踏まえ、2028年度までに、公費節減効果について1.1兆円程度の確保を図る」とした。

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令和5年12月22日に閣議決定した「全世代型社会保障構築会議報告書~全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する~」を見ると、医療・介護制度の改革の基本的方向として超高齢社会への備えと人口減少に対応を謳っている。
そこで「特に、2025年までに75歳以上の後期高齢者の割合が急激に高まることを踏まえ、負担能力に応じて、全ての世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みを早急に構築する必要がある」という文言が登場するのだ。
簡略にまとめれば、総額3.6兆円を使って“若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もがこどもを持ち、安心して子育てできる社会、こどもたちが笑顔で暮らせる社会の実現を目指”すという。その財源として、高額療養費の自己負担限度額をすべての世代、すべての所得区分で引き上げることにしたのだ。
SNSには「子どもに経済的な負担をかけて不幸にするなら、治療はあきらめるだろうな」といった投稿も散見されるようになっているが、それは若い世代=現役世代が安心して子育てできて、子どもたちが笑顔で暮らせる社会と言えるのだろうか。
高額療養費制度は、特に女性にとって必要になる可能性が高いとXにポストしたのが産婦人科医の宋美玄氏だ。
〈女性は現役世代で高額な保険医療を必要としやすいです。不妊治療、切迫早産の長期入院、お産も保険になるかもだし、乳がん子宮頸がんも現役ど真ん中です。
高額療養費引き上げは男女の健康格差を広げます。困るのは女性だけでなく家族や職場、社会全体です。〉
そこで、女性が受けるかもしれない高額な医療にはどんなものがあるのか、宋医師に詳しく聞いた。