新しい年を迎えても世界各地の戦争に終わりは見えず、物価は上昇し、社会情勢やテクノロジーが変化する勢いはどんどん増している。気候変動やさまざまな感染症の拡大、自然災害とその深い爪痕……不安だらけの世の中で、なんとなく体調不良を覚える方は少なくないのではないだろうか。
頭が重い、眼精疲労や肩こり、腰痛がひどい、いつもだるくてよく眠れないといった不調は、日常生活に大きく影響する。病院でしっかり診察や検査をしても特に異常がないと診断される状態は、不定愁訴やMUS(Medically unexplained symptoms=医学的に説明困難な症状)と呼ばれている。
こうした不調を自宅で手軽に軽減するための研究・開発が進められていると聞きつけた。しかも、深刻な病気になる前に体内の異常を取り除いたり、普通の認知機能をさらにアップさせたりする可能性もあるらしい。さっそく研究プロジェクトのメンバーである新潟大学脳研究所の田井中一貴教授に話を聞いた。
さまざまな疾患治療に注目される〈ニューロモデュレーション〉とは
――いろいろとつらいのに、どう治せばいいかわからない不定愁訴に効く治療法の研究が進んでいると聞きました。どんなものなのでしょうか。
田井中一貴教授(以下、田井中) 少子高齢化や地球温暖化、大規模災害などの10目標の解決を掲げた政府の大型研究プログラム《ムーンショット型研究開発事業》*1の中のひとつ、「目標7」の〈2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現〉するための研究開発のひとつです。具体的には、北海道大学遺伝子病制御研究所の村上正晃教授率いる「病気につながる血管周囲の微小炎症を標的とする量子技術・ニューロモデュレーション医療による未病時治療法の開発」*2に参加しています。
年齢を重ねると、どうしても免疫疾患や脳血管障害・心血管障害、認知症といった病気になりやすい。これらの原因の多くは炎症によることがわかっており、私たちの研究ではごくごく小さな炎症を見つけ出すことと、病気の芽を摘む技術開発を進めています。後者に使うのが〈ニューロモデュレーション〉という技術です。
*2 北海道大学遺伝子病制御研究所の村上正晃教授がプロジェクトマネジャーを務める「病気につながる血管周囲の微小炎症を標的とする量子技術・ニューロモデュレーション医療による未病時治療法の開発」