わかな保育園で、オーガニック給食を食べる子どもたち(写真:益田 美樹)

学校や幼稚園・保育園などの給食を無償化しようとの議論が盛んになる中、有機食材を使ったオーガニック給食への切り替えが全国でじわじわと広がっている。ただ、この導入については意見対立も見受けられ、最近も給食野菜を全て有機(特別栽培農産物含む)にするとした東京都品川区の発表に対してSNS上で賛否の声が飛び交った。では、すでに実践している事例にはどんなものがあるだろうか。中には「気づいたらオーガニック給食になっていた」というケースも。現場の声に耳を傾け、導入のきっかけを探った。

(益田美樹:ジャーナリスト)

保育で大切な「食」と「農」

 しちぶずきごはん、さけのしおやき、ぐだくさんじる―――。

 茨城県水戸市のわかな保育園(大橋久絵園長、定員170人)。ある日の昼の献立は、一汁一菜だった。子どもたちは、慣れた手つきで自分のお皿に食事を盛り、空いている席に座っていく。「いただきます!」と声を上げ、友だちとおしゃべりしながら食べ物を口に運ぶ。

 この保育園の給食では、好きな量を自分でよそい、席も子どもたちが自分で決める。指定された時間内であれば、いつ食べ始めるかも自分で決めてよい。大学の学食のような自由さがある。そして、もう一つの特徴が、主要なアレルゲンを除いた「オーガニック給食」を提供している点だ。アレルギーのあるなしにかかわらず、全員が同じ食事を食べる。

わかな保育園のある日の給食(写真:益田 美樹)

 オーガニック給食とは有機食材を一部でも使った給食のことで、地元食材を利用する「地産地消」も重要な目標になる。持続可能な食料システムを目指す「みどりの食料システム戦略」や、「オーガニックビレッジ」の創出といった農林水産省の施策も弾みとなり、この数年で普及の機運が高まってきた。

 同省の資料によると、学校給食に有機食品を利用する市区町村は2023年度、過去最高だった前年度から85増となる278。関係者が一堂に集う全国フォーラムには、長らく“有機農業の対抗勢力”とみなされていたJAも参加するようになってきた。

【関連記事】
オーガニック給食が拡大中!子どもに安心・安全なだけじゃない、持続的な農業・街づくりのカギに

 生産者側は「オーガニック給食は農業の未来に貢献する」と期待しているが、給食提供側の動機は、必ずしも生産者側と同じではない。例えば、わかな保育園の狙いは「保育の質向上」だった。献立と提供スタイルを今の形にしたコロナ禍以降、園内では落ち着く子どもが増えてきたといい、大橋園長は「食や農が保育の中でいかに大事かを実感しています」と話す。

 大橋園長には、もともと食に対して特別な思い入れはなかった。変化のきっかけは4年ほど前のこと。アレルギーを持つ子どもに対する給食の提供ミスだった。大事には至らなかったものの、大橋園長は猛省したという。そして、再発防止策を見つけようと、全国の食育や栄養学の講演会などを必死で渡り歩く中で、1つの答えにたどり着いた。