遊休農地を有効活用
オーガニック給食導入のプロセスは、施設や地域によってさまざまだ。中には農業の担い手不足という問題が発端となった例もある。
長野県の木曽地方に位置する松川町は、2020年ごろから有機食材を給食に取り入れ、オーガニック給食先進地の一つとして関係者に知られている。人口1万人余りのこの町では、耕作の担い手の高齢化や後継者不足などが大きな課題だった。担い手がいなくなるなどして「遊休農地」が拡大。2020年には東京ドームの約48倍、224.8ヘクタールとなった。これ以上、遊休農地は増やせない。
その対策として、農地を持たない住民にも関心を持ってもらおうと、町は「一人一坪農園」などの取り組みを始めた。遊休農地を解消するために作物をつくるとなれば、販路も開拓しなければならない。消費者に受け入れてもらうには、環境にやさしい野菜や米の生産を目指した方がいい。そうした形が出来上がっていく中で、学校給食が抱えていた課題と交差した。

松川町立松川中央小学校は、町全体で作る学校給食約1000食のうち半数以上の調理を行う給食の基幹校だ。同校の栄養士、木下めぐ美さんは言う。
「学校や保育園の給食に携わっていると、地産地消をするようにと上から言われるのですが、市町村によっては食材を無理やり集めてこないと実現できません。松川町もそうでした。果樹の町だから野菜を作っている農家は少なく、地産の野菜では必要量が手に入らない。そこを何とかしたいと町職員に投げ掛けたとき、『遊休農地対策で野菜を作ったら給食でも使えるかな』という話が出たんです」
実行に移す際は、生産者側が給食の現場に「どんな作物だったら使ってもらえるか」と尋ねるところから始まった。ただ、木下さんは栄養士だ。わかな保育園のケースでも見られたように、職業柄、栄養士はオーガニック給食の導入に消極的だったり、反発したりするケースがある。そのこと自体は給食関係者の間で知られた話だ。
では、栄養士からすれば、どの点がネックなのか。