アレルゲン対策からオーガニックに行き着く

 保育園で預かる子どもの命を守るためには、どんな給食を提供したらいいのか。

 大橋園長の答えは「7品目アレルゲンを抜いた給食」を提供することだった。園児ごとに個別でアレルギー対応を担う形にすると、職員の負担も増す。ミスも完全には防げない。それを考えると、「安心な給食」を実現するには、アレルゲン抜きの食事しかなかった。

 ところが、園内の反発は予想以上に大きかった、と大橋園長は明かす。

食材の相談をする大橋久絵園長(右)と松岡尚孝さん(写真:益田 美樹)

 栄養士は、その食材では必要な栄養を十分に摂取できないと反発し、調理員2人とともに退職した。その結果、給食担当の職員は、調理員1人だけになってしまった。それでもアレルゲン抜きの給食提供に踏み切ったのは、「栄養面での問題はない」と専門の大学教授などから教わっていたからだという。

 アレルゲン抜きの食事となると、食材は限られる。そのため、実施後は品質の良い食材を選択し、それぞれの成分にも注目するようになった。慣行農法の野菜よりも栄養価が高いとされる有機の野菜を使いたい。そうなると、顔が見えて信頼できる地元農家に有機農法で生産してもらわなければ給食が成り立たない。そうした流れの中で、わかな保育園の給食は地産地消のオーガニック給食に行き着いた。

 ただ、オーガニック給食の継続には課題も多い。有機野菜は年中収穫できるわけではないうえ、収量も限られる。その課題を少しでも解決するため、大橋園長は、有機農家の勉強会に参加するようになった。「どの野菜がいつ収穫できるかも、まったく分からなかった」(大橋園長)ものの、地域の農業への理解も深まり、今では園内で有機の野菜作りにも挑戦している。

 つくば有機農業技術研究所(茨城県つくば市)の松岡尚孝代表は、有機農産物の研究・栽培から販売、生産指導まで、有機農業の川上から川下まで全てを経験してきたエキスパートだ。わかな保育園の大橋園長にも有機食材のアドバイスを続けている。

 松岡代表は「保育園・幼稚園などの方が、オーガニック給食を導入しやすい」と感じている。一般的に学校よりも小規模なぶん、調達や調理が柔軟にできるなどの利点が多いからだ。「専門家の力を借りれば、大橋さんのようにゼロから始めることも十分に可能」と断言する。