
(ステラ・メディックス代表、獣医師/ジャーナリスト 星良孝)
【前編】個人クリニックでも月1000万円の利益、美容クリニックの経理担当者が語る「潤う仕組み」とその裏側
若い医師が保険診療を避け、美容医療を目指すのはなぜか。
前半では、開業クリニックの収益という観点から、美容クリニック経理担当者の取材に基づいて、その収益性の高さについて書いた。もっとも、保険診療クリニックだからといって、収益面で苦戦しているのかといえば、意外に健闘している。
医師が美容医療を目指す理由として開業した後の経営が一つの要素にはなると考えていたが、それだけではないようだ。そこで、別データをあらためて確認することにした。
若手の研修医は過酷だとよく言われる。そうした労働環境が短期から中期の要素なのは、恐らく間違いないが、若い医師の不安について掘り下げていくと、長期的な要素のほうが大きな影響を与えているということが分かった。
まず「若手の医師が過酷だ」という点から見た上で、長期のデータを確認し、若い医師が置かれている状況の理解を深めていきたい。
若手医師たちが危惧する日本の行き止まり
なぜ若い医師が美容を目指すのか。よく言われるのは、勤務医としての過酷さだ。筆者もJBpressで書いたことがあるが、日韓に共通する、専門医取得までの過程の過酷さが、美容医療への流入を招いているとされる。
◎美容医療の世界に転じる専門医の増加は何を意味しているのか?形骸化し始めた日本の専門医制度(JBpress)
◎美容医療大国・韓国で起き始めた専門医制度の崩壊、日本も対岸の火事では済まない(JBpress)
2024年初頭、韓国では研修医の過酷な労働条件に端を発したストライキが大きな波紋を広げた。同国で美容医療に流れる医師が急増している背景には、「専門医資格を取得しても待遇があまり改善されない」「レジデントの給与が非常に低く、疲弊しやすい」という構造的な事情があるとされる。
医学部を卒業した後も月収40万円程度の状態が続き、年収2000万円近い美容医師との格差に絶望しているという怨嗟の声が韓国の若い医師から漏れていた。
「韓国では、2025年に至ってもこうした医師のボイコットの影響が尾を引いている。例えば、救急部門の体制も不十分なままだ」。この3月に韓国のある医師は語った。
日本ではもっとひどいと言われることもある。
いわゆる「無給医」問題で、大学病院で診療に従事していながら給与を全く支給されず、バイト診療で糊口をしのぐ若手医師が少なくないという実態が、公的機関の調査で明らかになったのだ。
2024年に医師の働き方改革が始まった結果、今やバイトも過去のように容易にはできず、収入源の確保が難しくなっている。