保険診療を捨て美容医療に向かう若手医師が増えている(写真:アフロ)保険診療を捨て美容医療に向かう若手医師が増えている(写真:アフロ)

(ステラ・メディックス代表、獣医師/ジャーナリスト 星良孝)

 医学部を卒業した若い医師が、病気を診る保険診療を避け、自由診療の美容医療を目指すケースが増えている。2年間の初期研修を終えてすぐに美容医療に進む医師のことを「直美」という。そんな新語で表現するほど、業界では大きなトレンドとして注目されている。

 それに併せて、美容クリニックが他の診療科と比べて急増している。

診療科目別の診療所の2020年と比べた23年増加率(出典/厚生労働省、ヒフコNEWS)診療科目別の診療所の2020年と比べた23年増加率(出典/厚生労働省、ヒフコNEWS)

 こうした現象はなぜ起こるのか。筆者は20年以上医療の領域の取材を続けているが、美容医療のトラブルが顕在化し始めた2年前から「ヒフコNEWS」という美容医療媒体の編集長として、中立な立場から美容医療関係者を取材してきた。

 美容クリニックの後遺症被害、脱毛クリニックの経営破たんなどが盛んに報じられる中で、なぜ美容医療に医師が集まるのか。この疑問に関して、「美容クリニックが儲かるから若手が美容に行くのだ」という説が言われるが、実際のところはどうなのだろうか。

 今回、美容クリニックに勤める経理担当者に取材することが叶ったため、まずその辺りの実態を見ていこう。

 記事は前、後半に分け、美容医療の儲けのカラクリを見た上で、後半ではさらに疑問を深掘りしてみようと考えている。

美容クリニックの経理担当者が語る「潤う仕組み」

「私、もともと大手企業の一般事務職をしていました。中途採用のような形で美容クリニックの経理を手伝うことになり、それから10年近く、美容医療の現場に携わっています」

 そう語ったのは、関東の美容クリニックで経理を務めている木田川さん(仮名)。前職は医療とは全く関係がなく、「最初はエステとは違うけれど、何となく特殊な世界なのかな」という程度の印象だったという。あくまで経理の経歴を買われて入職した。

 木田川さんのクリニックは、院長を務める50代の医師個人が開設した小規模な医院だ。月当たりののべ来院者数は約500人で、月の売上高は2500万~3000万円。

 美容医療にとってニーズが高いのはシミ、シワ、たるみの改善。木田川さんのクリニックは二重まぶたの手術をメーンに据えながら、手術を伴わないこれらシミ、シワ、たるみに対する非外科的治療、いわゆる「プチ整形」を多く手掛けている。

 実際に働いてみて驚いたのは、非外科的治療の利益率の高さだった。