
(ステラ・メディックス代表、獣医師/ジャーナリスト 星良孝)
医学部を卒業した若い医師が、病気を診る保険診療を避け、自由診療の美容医療を目指すケースが増えている。2年間の初期研修を終えてすぐに美容医療に進む医師のことを「直美」という。そんな新語で表現するほど、業界では大きなトレンドとして注目されている。
それに併せて、美容クリニックが他の診療科と比べて急増している。

こうした現象はなぜ起こるのか。筆者は20年以上医療の領域の取材を続けているが、美容医療のトラブルが顕在化し始めた2年前から「ヒフコNEWS」という美容医療媒体の編集長として、中立な立場から美容医療関係者を取材してきた。
美容クリニックの後遺症被害、脱毛クリニックの経営破たんなどが盛んに報じられる中で、なぜ美容医療に医師が集まるのか。この疑問に関して、「美容クリニックが儲かるから若手が美容に行くのだ」という説が言われるが、実際のところはどうなのだろうか。
今回、美容クリニックに勤める経理担当者に取材することが叶ったため、まずその辺りの実態を見ていこう。
記事は前、後半に分け、美容医療の儲けのカラクリを見た上で、後半ではさらに疑問を深掘りしてみようと考えている。
美容クリニックの経理担当者が語る「潤う仕組み」
「私、もともと大手企業の一般事務職をしていました。中途採用のような形で美容クリニックの経理を手伝うことになり、それから10年近く、美容医療の現場に携わっています」
そう語ったのは、関東の美容クリニックで経理を務めている木田川さん(仮名)。前職は医療とは全く関係がなく、「最初はエステとは違うけれど、何となく特殊な世界なのかな」という程度の印象だったという。あくまで経理の経歴を買われて入職した。
木田川さんのクリニックは、院長を務める50代の医師個人が開設した小規模な医院だ。月当たりののべ来院者数は約500人で、月の売上高は2500万~3000万円。
美容医療にとってニーズが高いのはシミ、シワ、たるみの改善。木田川さんのクリニックは二重まぶたの手術をメーンに据えながら、手術を伴わないこれらシミ、シワ、たるみに対する非外科的治療、いわゆる「プチ整形」を多く手掛けている。
実際に働いてみて驚いたのは、非外科的治療の利益率の高さだった。