参院予算委で答弁のため手を挙げる石破首相=3月5日(写真:共同通信社)

 3月7日、ついに石破茂総理大臣は全国がん患者団体連合会(全がん連)、日本難病・実施団体協議会(JPA)の代表者たちと首相官邸で面会し、約3623人分の「高額療養費制度の負担上限額引き上げ反対に関するアンケート」回答を受け取った。

 4日に衆議院本会議で新年度予算案が可決された翌日、参議院予算委員会に出席した参考人の轟浩美全がん連理事は、よどみなく当事者の要望を伝えた後、「私たちは、やみくもに反対しているのではないのです」と、政策決定プロセスへの疑義を呈した。

 7日の面会後、総理は衆議院予算委員会で決定した8月の1段階目の引き上げを見送り、秋までに検討、決定すると表明した。

 全がん連やJPAのロビイング、全国保険医団体連合会や個人からの働きかけや発信、そして日本乳癌学会、日本胃癌学会、日本緩和医療学会、日本がんサポーティブケア学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本呼吸器学会、日本肺癌学会、東京都医師会などから反対声明が発表されたことも後押しとなって、異例ともいえる修正に結びついたことは確かである。

 衆議院で予算案が可決される前の2月26日、〈卵巣がん体験者の会スマイリー〉代表の片木美穂さんに話を聞いた。2006年ごろから卵巣がん患者が直面していたドラッグ・ラグ問題解消をはじめ、数々のロビイングや政策提言を行ってきた片木さんは、今回の問題をどのように見ているのだろうか。

相談者のほぼ全員が「お金の不安」を口にするように

――〈スマイリー〉では19年間、卵巣がん患者さんやご家族の相談を受けておられますね。年明けから高額療養費制度についての話題が広がりましたが、相談内容に変化はありますか。

片木美穂さん(以下、片木) はい。高額療養費制度の自己負担限度額引き上げについてのニュースが増えるにしたがって、お金の心配を口にする患者さんが増えました。というか、ほぼ全員が聞いてこられます。

 最初のうちは再発の不安や、薬剤の効果などについて質問されるのですが、だいたい終わったころでお金の話になるんです。「自分の年収で支払っている額は何万円ですが、これで合っていますか」とか「家族3人で食費を1日1000円にしていますが、引き上げになったらどこを削ったらいいですか」といようなお話まであります。冬は着込めばなんとかなるからと、暖房を使っていないという患者さんもおられて、聞いていて胸が締め付けられます。でも、電気代の高騰で1カ月の薬代と電気代が同じくらいになるだろうから、エアコンのスイッチを入れる気になれないというのもわかるんです。

――制度を利用する患者さんは、それぞれ生活背景や職業、年齢なども違いますよね。

片木 〈スマイリー〉の患者さんは女性のみですが、年齢は幅広いです。独身なのか、親御さんの介護はあるのか、何歳くらいの子どもさんがいるのかなど、とても所得で一括りにできるものではありません。

 治療中やその後の体調も、人それぞれです。今まで通り働ける人もいれば、時短制度などを利用する人もいる。離職する人もいる。乳幼児を抱えた患者さんは、夫が働かねばならないので、ワンオペ育児を余儀なくされることもあります。自助、共助といっても頼れる血縁や友人が必ずいるわけではないのに、基礎となるべき公助が削られる見直しですよ。