美容整形大国・韓国で起きている変化は日本でも見られる(写真:beauty_box/イメージマート)美容整形大国・韓国で起きている変化は日本でも見られる(写真:beauty_box/イメージマート)
  • 韓国で起きている研修医ストの背景には、韓国の医療界で進む専門医制度の崩壊がある。待遇の低さから専門医をあきらめ、美容医療を目指す医師が増えているのだ。
  • 同じことは日本でも起きつつある。日本の主要美容医療チェーンの院長を調べたところ、心臓血管外科、消化器外科、呼吸器外科、小児科などの専門医が美容医療に転じていた。
  • 待遇を求めて美容医療に流れる専門医が増加すれば、日本の医療を根底から揺るがしかねない。

(ステラ・メディックス代表、獣医師/ジャーナリスト 星良孝)

 韓国の研修医ストライキは、医学部教授もストライキに乗り出すと報じられるなど鎮火の気配が見えない。

 前回の記事では、この背景にある動きの一つとして、韓国の医療界で進む専門医制度の崩壊について報告した。この中で、韓国の異常事態は日本にとっても無縁ではないと述べた。

美容医療大国・韓国で起き始めた専門医制度の崩壊、日本も対岸の火事では済まない(JBpress)

 前回は、韓国の研修医ストと美容医療とのつながりを含めて書いたが、これと似た話は日本にもある。

 そこで、今回は、いわば“専門医デパート”になっている美容医療クリニックの現状を紹介した上で、美容医療大国とされる韓国との共通項と、日本でも大きな問題になりかねない専門医制度の矛盾について考察していく。

専門医の秩序が崩れ始めている

「日本で最大の医局はどこか」。4月12日、神戸市で開催された第67回日本形成外科学会総会・学術集会のある講演で、神戸大学形成外科の原岡剛一客員教授はこう問いかけた。

 何のことかと初めは分からなかったが、すぐに原岡客員教授は「それは美容医療クリニックだ」と答えを明らかにした。

 教授を頂点とした医局内の人間模様を描いた山崎豊子の『白い巨塔』で有名になったが、医局とは大学の教室などの専門家集団を指す医療用語である。

 原岡氏が投げかけたのは、「日本で最も大きい形成外科の医局はどこか」という質問で、日本の医師であれば、通常は「どの大学の医局か?」と考える。

 ところが、大学の有名な形成外科医局が200人程度であるのに対し、湘南美容クリニックや東京中央美容外科といった大手の美容医療チェーンに所属する医師は400人近くに拡大している。これが日本最大の形成外科専門家集団としての存在感を高めているというのだ。

 本来、形成外科はケガや先天異常、腫瘍を中心に日本の医療を支える柱の一つとして見なされる専門分野だ。

 美容医療は、形成外科の一分野であるにもかかわらず、長らくその重要性は低く評価され、忌避されがちであった。形成外科医が美容外科に進むと言うと、医局では破門される大学もあったくらいだ。現在でもそうした大学があるともされる。

 これまでの専門医の秩序が崩れ始めているといっても、あながち虚言とも言い切れない。

 そうした中で、国は専門医の数をコントロールしようと、大学の形成外科専門医の育成数に上限を設けている。「シーリング」と呼ばれ、2020年度から始まった。

 今でも国が運営する専門医制度で認定される形成外科医は、大学をはじめとした医局で育成されるが、国に認められた人数以上に育てられない。

 本流の形成外科医は国からブレーキをかけられるわけだが、美容医療クリニックでは国のコントロールが全く利かず、アクセルが踏まれ続けている。形成外科の一分野だけを担っている美容医療の医師だけはたがが外れているのだ。

 原岡客員教授は講演で、「専門医制度が形骸化しかねない」と漏らした。