(ステラ・メディックス代表、獣医師/ジャーナリスト 星 良孝)
飲食店で生の肉が提供されることは珍しくはない。好物だという人もいるだろう。しかし、そんな人気に冷や水を浴びせるような不幸な出来事が起きた。今年8月、京都で食肉を原因とした食中毒が発生。90代の女性が亡くなった一件だ。
原因はユッケ、およびレアステーキと報道された。
ニュースで耳にした人もいるかもしれないが、ここで「レアステーキで食中毒」という話に違和感を覚えたという人はいないだろうか。
ステーキの焼き加減を表現する言葉として、「レア」「ミディアム」「ウェルダン」と言い方がある。 これを思い浮かべた人は、焼いた肉で食中毒なんて起こるのかと疑問が湧いても不思議ない。
それは至極真っ当な感覚だが、背景には「脱法ユッケ」とも揶揄される、生肉の安全性をめぐる盲点がある。今回、報道された「レアステーキ」という呼称は、「レア」「ミディアム」「ウェルダン」というステーキの焼き加減の表現とは全く別物と言っていい。業界慣行で生み出された造語である。
今回はこの牛肉を原因とした食中毒を獣医学の観点も踏まえて解説する。
*動画でも資料を交えて現状や背景を紹介しているので、以下の動画を是非ごらんください。
【京都】解説、ユッケで食中毒、牛肉なぜ大腸菌【レアステーキ、健康】
実質的に生肉だったレアステーキ
あらためて食中毒の事件を振り返ろう。
食中毒を調査した京都府宇治市の山城北保健所によると、8月22日および26日に、京都府宇治市の食品店が販売したローストビーフ、また23日および25日に販売したレアステーキを食べた4グループ6人中5人が下痢や腹痛を訴えたという。最初に症状が現れたのは8月26日。90代女性が亡くなった。
診察した医師が保健所に腸管出血性大腸菌による食中毒として報告したのは9月1日だった。
調査の結果、症状が現れた4グループの共通の食事が前述の食品店が販売した食肉であり、しかも症状を示した5人、症状を示さなかった1人の検便から腸管出血性大腸菌O157が検出。医師からの食中毒の届出も踏まえ、原因となる肉を販売した食品店が特定された。
山城北保健所は食品店に立ち入り調査し、喫食者を調査したほか、食品衛生法に基づき食品店の営業停止処分を下した。
一連の事件で言及されていたのが「ユッケ」であり、「レアステーキ」だった。
ユッケとレアステーキは全く別物に見える。
結論から言えば、レアステーキとして販売されたのは実質生の肉だった。その背景には、2011年以降に行われた生食用牛肉の規制強化の後にできあがった一般にはほとんど知られていない業界慣行がある。それは牛肉の安全性をめぐる盲点と言える。