メンター疑惑が浮上した尹錫悦大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

人の運命は瞬時に変わらない
時間と努力を重ね、一つひとつ前に進まなければならない
着実に進むことは遅いように感じるが
実は一番の近道だ

―天空 “洞察と逆説”より―

 これは、韓国人の「天空師匠」ことイ・ビョンチョル氏が2020年に出版した書籍『洞察と逆説』から抜粋された文句だ。そして、この言葉が韓国で物議を醸し、その声が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領批判という形で広がっている。

 なぜこの言葉が尹大統領の批判につがっているのか。それは、天空が2022年の大統領選挙時に「尹錫悦大統領候補のメンター」だと噂された人物だからだ。

 大統領批判のきっかけは、先の言葉が晋州(ジンジュ)税務署内のトイレに掲げられているという事実を韓国メディアJTBCが取り上げ、問題視したことによる。

 JTBCが晋州税務署に天空の文句を掲示した件ついて問い合わせたところ、釜山国税庁運営支援課の指示によって2022年2月に掲示したという。尹氏が大統領に内定したのが2022年3月であったから時期が近い。

 尹氏の大統領就任後、日に日に彼を批判する声が高まっている。その中で、彼と面識のある天空の文句が晋州税務署内に設置されていることが分かって、国民の間に憶測が飛び交っているようだ。

 JTBCは、晋州税務署に天空の文句を設置するよう指示した釜山国税庁にも同様の内容を問い合わせたが、「内部確認中」との返事であった。誰がどのような目的で設置させたのか分かっていない。

 余談だが、天空の文句のすぐ隣にはブラジルの作詞・小説家、パウロ・コエーリョの「アルケミスト(錬金術師)」の一節が掲げられているという。

 男性便器の真上、ちょうど目線のところにこれら文句が設置されているから、用を足すほとんどの人が天空やパウロの文句を目にするというわけだ。

 天空とはどのような人物なのだろうか。