今年6月29日、マドリードで開催されたNATO首脳会談に合わせて持たれた日米韓首脳会談での尹錫悦大統領(写真:AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 9月15日、韓国の主要メディアが一斉に、今月20日からニューヨークで開かれる国連総会を機に、日韓が2国間の首脳会談を行うことになったと報じた。

 韓国大統領府の金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長が会見において、「韓米首脳会談と韓日首脳会談を行うことで合意し、時間を調整中」、「互いに今回会ったほうがよいと快く合意した」などと語ったというのだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権の頃、韓国政府はしばしば一方的な発表を行ってきたが、私の知る金泰孝次長は、国益を考える信頼のできる人だった。なぜこのような発表になったか疑問である。

韓国の金泰孝・国家安保室第1次長(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

松野官房長官は「何ら決まっていない」

 韓国の報道によれば、会談予定時間はわずか30分との見込みという。それでも、悪化の一途をたどった日韓関係を考えると、両首脳の会談が実現すれば「それだけでも象徴的な意味を持つ」などと韓国メディアは評価している。確かに日韓会談が行われれば、2019年12月以来33カ月ぶりのこととなる。

 ところが日本のメディアでは、この「日韓首脳会談“決定”」のニュースが流れてこない。そもそも日韓両国の間には現在、元徴用工問題という大きな懸案事項があるはずだ。韓国メディアの報じ方はフライングとしか言いようがない。少なくとも今は発表のタイミングではなかった。

 しかし、韓国メディアの報じ方は、もう首脳会談については両国間で合意がなされたものと言わんばかりのものだった。

 韓国の中央日報は、元徴用工問題に関する韓国側の解決策づくりの見通しが立たない中での開催であるが、「これは尹錫悦政府が2018年強制徴用被害者に対する日本戦犯企業の損害賠償責任を認めた最高裁判決を迂回し、代位弁済など『外交的解決法』を模索することに対して日本側も呼応したと解釈できる」と分析してみせた。