自身を主人公にしたドキュメンタリー映画の制作が持ち上がっている文在寅前大統領(写真:ロイター/アフロ)

(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

 故安倍晋三元首相の引退後の夢は映画監督だった。

「自分で撮るとしたらヤクザ映画ですかね。『仁義なき戦い』をさらにドキュメンタリータッチにして、それと『ゴッドファーザー』を足して2で割ったものとかね」と、文化放送のラジオトーク番組で映画監督への憧れを具体的に語ったことがある。

 自民党のインターネット番組で、第2の人生を「任侠映画のプロデューサー」と明かしたこともあった。

 結局、その夢は山上徹也という身勝手な暗殺者によって奪われてしまったのだが──。安倍元首相がメガホンを取った映画、見てみたかった。

 実現するかどうかは今のところ定かではないが、昭恵夫人が監督となって夫の壮絶な半生を映画化しようという動きがあるそうだ。安倍元首相が生前よく、昭恵夫人に映画に対する熱い思いを語っていたことは有名な話である。彼の思いを最も近くで聞いていた昭恵夫人であれば、それも実現可能かもしれない。

 それに、彼女は新聞局と言えど電通の元社員だ。そんじょそこらの人よりは映画に対する知識も持っておられるだろう。

 一方、韓国では文在寅(ムン・ジェイン)元大統領を主人公にしたドキュメンタリー映画の制作が進められている。文政権で官僚を務めた政界の主要人物や、文大統領を支持した文化芸術家らが出演し、彼の大統領選挙当選から退任までの5年間を述懐する内容だそうだ。

 メガホンを取るのはイ・チャンジェ監督で、2017年に「盧武鉉(ノ・ムヒョン)です」という第16代大韓民国大統領を主人公にしたドキュメンタリー映画を制作した。

 彼の提案に文前大統領はまだ承諾していないようだが、既に文政権当時の主要閣僚たちを中心にインタビューを申し込んでいるそうだ。

 現時点でオファーを受けたことが分かっているのは、朴智元(パク・チウォン)元国家情報院長だ。

 彼のほかには、全海澈(ジョン・へチョル)元行政安全部長官、任鍾晳(イム・ジョンソク)元大統領秘書室長らが出演者リストに上がっている。また、韓国で有名な歌手や企業家にも出演の打診を行っているという。

 ただし、民主党内にも文前大統領を主人公とした映画の制作は「まだ早い」と否定的な意見がある。2022年3月の大統領選挙で民主党が敗れてからまだ半年しか経っていない。党内から否定的な声が出るのも無理はないだろう。