(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
韓国では、大統領が代わると国防の方針がこうも変わるものなのか――。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代、韓国の国防政策は「日本の侵攻」から国土を守ることであった。しかし、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権になってからは「中国・北朝鮮の攻撃」から守ることに大きく転換した。それまでの中朝に寄り添った国防から、より現実を見据えた国防政策への転換が急ピッチで図られている。
文在寅政権時代、韓国の防衛対象国は日本だった
文在寅前大統領の国防政策は、本来友好国である日本を、あたかも仮想敵国としているようであった。
その象徴が竹島である。日本が竹島を島根県に編入した1905年は、日本が韓国を保護領としたのと同じ年であったことから、韓国政府は、竹島は日本が韓国に侵略する第一歩だとこじつけた。そして武装警察を常駐させ実効支配した竹島について、日本との間での領土紛争を認めようとせず、竹島を自国領として日本から守ろうとする意識が強くなった。
韓国人のこの意識は文在寅政権下でより過敏になった。昨年開催された東京オリンピックでは、大会組織委のホームページに掲載された聖火リレーのコースを示した日本地図に竹島が含まれていたとして、韓国政府は猛烈に抗議してきた。それどころか、当時、次期大統領選で与党「共に民主党」の有力候補と見られていた李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事は、オリンピックのボイコットまで声高に主張したのだ。とてもではないが、友好国に対する態度ではなかった。やはり日本を仮想敵国視していたと見るべきだろう。
文政権下では、竹島問題以外にも日本を仮想敵国と見ていたと疑わせる事例が散見される。具体的に2つの事例を紹介する。
第1は、自衛隊機に対する火器管制レーダー照射事件である。
2018年12月、日本の排他的経済水域(EEZ)内にある日本海の大和堆付近にて、海上自衛隊の哨戒機P-1が韓国海洋警察庁所属の警備艇、韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」ならびに北朝鮮の漁船らしき小型の船舶を視認、写真撮影を実施していたところ、突然駆逐艦から火器管制レーダーの照射を受けた。
韓国側は、当初「北朝鮮の遭難船のためにレーダーを稼働したのを日本側が誤解した」などとしていたが、その後「レーダー照射はしていない」と主張するなど、弁明が二転三転していた。