韓国の尹錫悦大統領(写真:AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 5月10日、韓国の第20代大統領に就任した尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏。就任当初は、米韓首脳会談の実現や金建希夫人のファッションの話題などで支持率が上昇し、6月上旬までは50%を超えていた。その勢いに乗って6月1日の統一地方選挙では、圧倒的な勝利を得た。

 しかしその後、事態は一転した。閣僚人事に対する批判、経験・資質不足を批判する声が高まり、支持率は急降下。最近のギャラップ調査では国政遂行に関し「うまくやっている」が27%、「うまくやっていない」が64%となるなど、肯定的評価はいずれの調査でも20%台に低迷している。韓国では「大統領支持率が40%を下回れば、国政運営に支障が出る」との指摘もあり、今後の政局に懸念が高まっている。

 その一方で、大統領選挙に僅差で敗北した李在明(イ・ジェミョン)氏はその後、国会議員の補欠選挙で当選、28日には野党第一党「共に民主党」(以下「民主党」)の代表に選出され、次期大統領候補として再び存在感を増している。

 尹大統領は日韓関係の改善にとり組む姿勢を見せているが、両国間には歴史や領土問題が懸案となっており、それを乗り越えて関係改善を成功させるためには大統領の強いリーダーシップが欠かせない。逆に言えば、尹大統領の支持率の低下は日韓関係改善の障害となりかねない。もしも尹大統領の支持率が下降し続け、退陣に追い込まれるようなことにでもなれば、次期大統領に李在明氏が当選し、日韓関係は再び悪化の方向に向かう可能性が高い。日本政府としても隣国の政情をよくよく注視しておかなくてはならないのである。

就任100日の会見で国政混乱への反省聞かれず

「中央日報」は社説において、尹錫悦大統領の就任100日会見を通じ、支持率低下の要因となっている同大統領の体質について分析している。

<国政運営否定評価の主原因はまさに人事の失敗だ。尹大統領は朴順愛(パク・スネ)前教育部長官など実力が検証されていない人々を無理に抜てきし、検察出身など側近を過度に起用して物議を醸した。尹大統領夫婦と私的な縁がある人々の大統領室勤務や官邸工事受注疑惑などが相次いだが、会見で自省や遺憾の表明はなかった>

 このように国政運営混乱の責任は尹大統領にあると断じられている。そのうえ、側近を第一線から退かせようと求める世論の声も無視し続けている。会見では、国政の混乱に対する反省にも、新しい出発を追求する人事刷新にも言及することはなく、これまでの成果を並べ立てただけだった。