(舛添 要一:国際政治学者)
韓国の尹錫悦大統領は、12月3日夜、「非常戒厳」を宣言した。私は中国訪問中で、広州のホテルで、翌日に国際会議で行うスピーチの準備をしていたところである。テレビでCNNを見ながら演説草案に手を入れていたので、すぐにこのニュースに接したが、日本からも友人が電話で知らせてくれた。
「とんでもないことをしてくれた!」というのが、私の最初の感想であった。その後、すぐに戒厳令は解除されたが、韓国政治の混乱は続いている。
少数与党の悲哀
日本の石破内閣も、先の衆議院選挙で自公が過半数割れを起こし、少数与党という苦しい状況となり、野党の協力を仰がないと国政運営が出来なくなった。そこで、国民民主党と政策協議を行い、同党の要求である「103万円の壁」の撤廃などの要求を受け入れることにした。その結果、補正予算案の国会通過の目処が付いたのである。
韓国も同じで、4月10日に行われた国会(定数300、一院制)の総選挙で、保守系与党「国民の力」が、改選前の114議席を下回る108議席しか獲得できず、惨敗した。一方、左派系最大野党「共に民主党」は、改選前の156議席から175議席へと躍進して、単独過半数を維持した。
また、文在寅政権下で法相を努めた曺国(チョ・グク)が代表で、比例代表に特化した左派系新党「祖国革新党」が12議席を得たが、この党は「共に民主党」と連携する。そのため、両党を合計すると187議席となる。特定の法案を「ファストトラック(迅速処理案件)」に指定して、国会を通過させることのできる180議席を超えたため、尹錫悦大統領の政権運営は極めて困難になったのである。
大統領の弾劾訴追案や憲法改正案の議決を拒否するには101議席が必要であるが、与党は、何とか101議席は守ることができた。
ちなみに、曺国は、12日、大法院(最高裁)から懲役2年の実刑を言い渡された。そのため、国会議員を失職するが、野党が再度提出した弾劾訴追案の14日の採決までに繰り上げ当選手続きが間に合わないと、可決のためには与党から9人の造反が必要になってくる。
4月の総選挙の結果に野党の「共に民主党」は勢いづき、李在明(イ・ジェミョン)代表は、次期大統領選に弾みをつけた。敗北した与党の選挙戦を指揮した検事出身の韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長は、現職の国会議員ではないが、7月の党大会で、党勢を立て直すために党のトップの座に就いた。
総選挙以降、与野党の対立は深まり、野党の攻勢の前に、尹錫悦は苦しい国政運営を余儀なくされてきた。とくに夫人の金建希(キム・ゴンヒ)のスキャンダル追及や閣僚の弾劾訴追など、野党は攻勢を強めた。日韓関係にも暗雲が立ちこめ、尹錫悦政権の対日宥和政策を批判し、たとえば世界文化遺産登録が決まった佐渡島の金山をめぐる政府の対応を野党は非難した。