反米プロパガンダの観光資源として平壌に係留されているプエブロ号(写真:Kristoferb, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 北朝鮮には、「米国は嫌いでも、ドルは好き」という言葉がある。いくら反米を叫んでも、米ドルは好きにならざるを得ないという意味だ。今の北朝鮮では、100万ドル以上を稼いだ人には最高の名誉の一つである「努力英雄」の称号を叙勲する。それほどまでに、米ドルに対する執着や関心が高まっているのだ。

 北朝鮮社会に広がっているドル愛について、象徴的な事件があるのでお伝えしよう。

北朝鮮にドルを運んできた米情報収集艦

 プエブロ号は、軽貨物船を改造して作られた米海軍所属の情報収集補助艦である。重量106t、長さ54m、幅10m、時速12.2ノットに、口径50mm機関砲2門を取り揃えた艦船である。

 このプエブロ号は1968年1月23日、1時45分、東経127度54分3秒、北緯39度25分の公海上で、4隻の北朝鮮哨戒艇とともに出動した北朝鮮空軍所属のミグ2機の脅威にさらされる中、拿捕されて北朝鮮の元山港に拉致された。

 当時、北朝鮮軍に拿捕されたプエブロ号には、艦長(中佐)をはじめとした6人の海軍将校と水兵75人、民間人2人を含む83人が乗船していた。米海軍艦艇が公海上で拉致されたのは、米海軍史上106年ぶりの出来事だったという。

 一触即発の緊張状態の中、米朝間で秘密交渉が行われ、11カ月後、82人の乗員と死体1体が、板門店を経由して解放されたが、船体と装備は北朝鮮にすべて没収された。プエブロ号事件は、米海軍史に屈辱的な事件として記録されることになったのだ。

 北朝鮮は、今もその勝利と光栄を祝福する意味で、「祖国解放戦争勝利記念館」がある普通川に、プエブロ号を展示用に停泊させ、北朝鮮住民や訪朝した外国人の観光名所にしている。

 おもしろい事実は、拿捕されたプエブロ号が32万ドルほどの米ドルを保有していたということだ。このお金は、現場を捜索したのち、北朝鮮軍にすべて没収され、すぐさま当時のトップである金日成(キム・イルソン)氏に送られた。

 そこで驚いたのは、32万ドルに対する金日成の反応だった。