ハルキウ州から撤退したロシア軍が残した車両の残骸(9月13日撮影、提供:Iryna Rybakova/Ukrainian Military Unit Kholodnyi Yar/AP/アフロ)

 ウクライナ軍によるハルキウ州奪回成功の陰に、ロシア軍電子戦の敗北がある。

 航空作戦を有利に進めるためには、戦闘機などが自由に飛行できるように、侵攻当初から敵の防空兵器を破壊することが必要だ。

 破壊する方法の代表的なものは、対レーダーミサイルで、レーダー波を出している防空レーダーを攻撃することだ。

1.空中の電子戦に当初敗北していた?

 2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻したその日、テレビニュースには、ウクライナ軍の防空レーダーが、ロシア軍のミサイルに攻撃されて燃えている様子が映し出されていた。かなり衝撃的であった。

 これは、ウクライナ軍の防空レーダー(防空ミサイル用の射撃統制レーダーや防空監視レーダー)が発するレーダー波に、ロシアの対レーダーミサイルがロックオンして、レーダー波の発信源に向かって飛翔し、命中し、破壊したのだ。

 ウクライナ軍のレーダーが破壊され燃える映像は、すべての防空兵器が、破壊されたのではないかと想像させるものでもあった。

 ウクライナ軍の防空レーダーが使えなくなったのでは、ウクライナ上空の航空優勢はロシア軍のものであり、ロシアの戦闘機や爆撃機の飛行は思いのままだ。

 たった1日で、この戦争の行方は「ロシア勝利」と見えているかのようだった。

 実際のところウクライナ軍は、旧式の防空レーダーのみが破壊されたのであって、大部分の防空兵器は残存していた。

 つまり、旧式の防空ミサイルは囮となって破壊され、旧式ではない防空レーダーは当時、電源を切っていていたか、あるいは別の対策を行って、対レーダーミサイルの攻撃から逃れたのだ。

 このような戦いに、勝敗を左右する電子戦が存在しているのだ。

 空中における電子戦は、日頃公表されない。このため、どのようなことが行われているのか、理解されないことが多い。

 そこで、今回はウクライナ上空における電子戦について、以下の順序で考察する。

(1)あらゆる電波が飛んでいる空間で、防空レーダーの電波を特定する方法

(2)防空レーダー波の収集と解析で、破壊すべき防空レーダーを選定する方法

(3)ウクライナ軍の対レーダー作戦

(4)ロシア軍の空中での電子戦の実態

(5)ロシア軍による航空作戦のための電子戦の成否は