韓国において、一般家庭に対する家宅捜索や検閲の承認手続きは複雑で難しい。個人のプライバシーや権利の保護は、民主主義社会の基本だからだ。反面、北朝鮮住民は歴史的に受け継がれてきた「5大家庭検閲制度」によって不自由な暮らしを強いられている。北朝鮮特有の5大家庭検閲制度とはどのようなものなのか。
(過去分は以下をご覧ください)
◎「北朝鮮25時」(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)
真夜中に嫌がらせのように実施される「宿泊検閲」
(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)
5大家庭検閲制度の一つ目は「宿泊検閲」制度である。住民の移動を統制し、行動を調査する制度である。北朝鮮住民には居住と移転の自由はもちろんのこと、旅行の自由すらなく、居住地以外の地域を訪問する時は、必ず旅行証明書を保安署(警察署)から発給してもらわなければならない。
旅行証明書には、旅行者の情報や目的、期間などが記されている。旅行証明書を持参する旅行者は、目的地に到着した後、滞在先の宿主と一緒に人民班長(10~20世帯で構成された班の責任者)から確認書を受け取り、分駐所(交番)に登録し、その登録書類を再び人民班長のもとに持参する。こうして臨時宿泊登録が完了する。宿泊登録は、居住地として居住登録をしている人を除くすべての人が無条件に行わなければならない制度である。
北朝鮮では、宿泊登録制度に基づき、時と場所を問わず頻繁に宿泊検閲が実施されている。宿泊検閲は保安員(警察)と人民班長が主に午前2時から3時の間に行う。停電が頻繁に起きる北朝鮮で、宿泊検閲を行う保安員(警察)はランタンを持ち歩く。保安員は人々が寝ている部屋に入ってランタンで顔を照らしながら、居住登録をした人かどうかを人民班長に確認する。
深い眠りに入っている時間帯に宿泊検閲のランタンの光で起こされる不快感は、経験した人にしかわからないだろう。布団を取って「長男!世帯主!次女!」などと歌いながら寝ぼけ眼の一人ひとりの顔にランタンの光を照射するのだ。
その家の家族以外の人間がもし宿泊登録を行わずに寝ていたら、保安署に連行されて取り調べを受けることになる。宿泊登録をしていない理由について尋問を受け、罰金を支払わなければならない。宿泊登録をしていない宿泊者は、宿泊検閲が来たらベッドの下や布団棚やベランダなどに身を隠す。