ドローンを扱うウクライナ兵(写真:AP/アフロ)

 2023年10月7日に始まったパレスチナのガザ地区を巡るハマスとイスラエルの戦闘。それは、人工知能で世界的に突出した技術を有するイスラエルが、自国の最新人工知能兵器を実戦で披露し、その威力を第三国に見せつける舞台ともなっている。

 一方で、人工知能が遂行する戦闘行為の許される範囲の線引きは、国際社会でも検討がなされている。人工知能の軍事への利用の歴史と現状、そして未来への課題について、『科学技術の軍事利用 人工知能兵器、兵士の強化改造、人体実験の是非を問う』(平凡社)を上梓した橳島(ぬでしま)次郎氏(生命倫理政策研究会共同代表)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──本書「科学技術の軍事利用」では、特に「人工知能兵器」「兵士の心身の強化改造」「人体実験」の3つにフォーカスしています。

橳島次郎氏(以下、橳島):私は、生命倫理の研究を30年以上やってきました。

 生命倫理と言うと、一般的には、体外受精や臓器移植、再生医療、ゲノム編集などの先端医療技術が対象となります。ただ、生命倫理で最も重要なことは「科学研究の成果がどのような技術に応用され、利用され、その結果、どのような問題が社会に出てくるのか」という点です。

 科学研究の成果は先端医療のような民生分野にも使われますが、その一方で、軍事目的にも当然使用される可能性があります。

 また、生命倫理の分野でいちばん大切だとされるのは「人間の尊厳と人権」です。戦争ないし武力紛争という事態は、まさに人間の尊厳と人権を著しく損なうものです。戦争と軍事は、生命倫理が取り上げるべき大きな課題、テーマなのです。

 今回の書籍では、「人工知能兵器」「兵士の心身の強化改造」「人体実験」の3つに着目しました。

 まず、人体実験の是非は、生命倫理の大きなテーマの一つです。例えば民生分野では、薬の安全性や有効性を確認するため、人に実際に薬剤を投与する臨床試験が行われます。そうした実験研究が、どのような条件で許されるか、対象者(被験者)の尊厳と人権をどう守るかを、生命倫理では考えます。

 私は長年、フランスの生命倫理の研究をしてきましたが、その一環として、軍事目的での人間を対象にした実験研究を国家がどう管理するのか、という議論がフランス議会で行われたことを知りました。その議事録を読み、私は、軍隊や国防機関も人間を対象にした実験をやっている、ということに改めて気づかされました。

 次に兵士の心身の強化改造について。これは身体能力の増強だけではなく、心理面、認知面も強化増強の対象となります。

 中国では、ゲノム編集技術を使って筋肉を強化した警察犬をつくる研究がなされているそうです。実験対象となったビーグル犬の筋肉量を2倍にすることに成功しています。この技術を人間に応用できれば、桁違いに強い兵士を生み出すことができるかもしれません。

 心身の強化改造には、生命科学・医学系の研究がかかわってきます。したがってこの問題は、生命倫理を専門とする私が扱うべきテーマだと感じた次第です。

 最後に、人工知能兵器ですが、昨今では人工知能は医療分野での応用が進みつつあります。人間の命と健康を左右する医療行為をどこまで人工知能に委ねていいのかという議論が展開されています。

 戦争または武力紛争において、戦闘行動をどこまで人工知能に委ねていいかという問題は、医療行為をどこまで人工知能に委ねていいのかという話と同じ構図の中にあると私は感じています。