津久井やまゆり園の「鎮魂のモニュメント」。加害者は「責任能力あり」と判断された(写真:共同通信社)

 凶悪な殺人事件などが発生して、被疑者が逮捕されると「精神鑑定を受けて責任能力の有無が議論される」という一文がしばしば報道などで見られる。よく知られた社会を震撼させた凶悪事件の犯人たちの多くは、その後刑務所入りとなり、死刑の判決を受けている。

 では、どんな場合に「心神喪失」の状態で事件を起こしたと判断されるのか。その後、事件を起こした人はどのような扱いを受けるのか。『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)を上梓したジャーナリストの里中高志氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──精神疾患を持つ人が犯罪行為をした場合の刑事責任能力と、心神喪失と判断された場合の治療について書かれています。あらためて、この本のタイトルにも含まれている「触法精神障害者」と「医療観察法」が何か、それぞれ教えてください。

里中高志氏(以下、里中):「触法精神障害者」とは、法律に触れる行為をしてしまった精神障害者のことです。一方の「医療観察法」は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」という正式名称の法律で、2003年に成立し、2005年から施行されています。

 医療観察法の第一条にはこう書かれています。

「この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする」

「必要な観察及び指導」「再発の防止」「社会復帰を促進」がこの法律の核心部分です。そして、この条文にある「重大な他害行為」が何かというと、殺人、傷害、放火、強盗、強制性交、強制猥褻の6つの犯罪を意味します。

 こうした犯罪行為に至り、その時に心神喪失の状態(精神疾患の影響で善悪の判断に従って行動できない状態)にあったと判断される人に対して、先ほどの「必要な観察及び指導」「再発の防止」「社会復帰を促進」を行うという法律です。

──精神障害者が傷害や殺人などの事件を起こした場合、メディアはその事件を報じず、行政とのやり取りの中では、事件を起こした人を「加害者」や「犯人」ではなく「対象者」と呼ぶと書かれています。

里中:この「対象者」という呼び方を、マスコミはそれほど使っていないと思います。しかし、医療観察法の治療や処遇に携わる人たちは「対象者」という呼び方をしています。法律の中でも「対象者」と呼ぶように定められています。

 物事が判断できない「心神喪失」の状態で事件を起こした人は罪に問うことができない。そこで、「加害者」や「犯人」という呼び方は適切ではないので「対象者」と呼ぶのです。

──対象者がどのようなプロセスを経て医療観察法病棟にやってくるのか、本書の中で説明されています。どういった立場の専門職の方が、どういった観点で判断しているのでしょうか。