悪意のある家族による安易な強制入院も起きている

 精神科病院の患者たちは、いったん入院させられると、なかなか退院が許されない。要塞のような施設の中は秘密だらけのブラックボックスだ。真っ当な精神科病院もあれば、問題山積みの精神科病院もある。患者たちから寄せられた声や、内情に詳しい関係者たちの証言は、まるで拷問さながらの衝撃に満ちたものだった。『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(東洋経済新報社)を上梓した風間直樹氏(『週刊東洋経済』編集長)に話を聞いた。(聞き手:長野 光、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に風間直樹さんの動画インタビューが掲載されています。是非ご覧下さい。

──閉鎖病棟からの退院を望む米田恵子さんという患者から届いた手紙をきっかけに、東洋経済の記者3人が日本の精神医療の現状に迫る取材を開始しました。どのように調査が始まったのか、米田恵子さんとはどのような人なのかを教えて下さい。

風間直樹氏(以下、風間):米田恵子さんから届いた手紙には、4年近く閉鎖病棟にいて、家族とも面会はおろか、電話やメール・SNSでのやりとりもいっさい許されない状況にあるという、驚くべき内容が書かれていました。「これは何なんだろう」というのが最初の率直な感想でした。

 私たち調査報道部は、別の記事の取材を通じて以前から精神医療の分野に関心がありました。これが調査を開始した理由の一つです。

 もう一つの理由は、彼女からの手紙の内容がとても具体的で、私たちの取材の手がかりになるようなことを伝えてくれていたことです。

 そこで、彼女がつながっている支援者や弁護士と連絡を取り始めるところから、取材を始めていきました。閉鎖病棟にいた彼女は、主治医の指示により誰とも会えず、電話もできないという環境にありました。スマホも持ち込めないため通信手段は手紙しかない状況です。

 ただ、彼女の主治医が代わり、第三者でも一定時間の面会が許されることになったため、その機を逃さず、私たちは彼女のいる閉鎖病棟に行き、直接会いました。

 彼女は、子供を児童相談所で亡くすという、とてもショッキングな経験がもとでオーバードーズ(大量服薬)し、精神科病院に強制入院させられていました。

 ただ、実際にお目にかかると、閉鎖病棟の中でも彼女はわれわれと普通に意思疎通をかわし、手紙でやりとりをしたことと同じような話を彼女からしっかり伝えてもらいました。

 退院後も、個別の取材を何時間も行いましたが、彼女は私たちがステレオタイプ(固定観念や思い込み)のイメージを持つ、「精神疾患があってなかなか意思疎通が難しい人」では全くなかったんです。「なぜ彼女が4年間も閉鎖病棟にいれられていたのか」ということに私たちは強い疑問を抱きました。