「妊娠して困っていたら、一人で悩まず連絡して下さい。あなたのいのちと人生、赤ちゃんのいのちを私たちは全力で守りたいですし、全力でサポートします」
十代の妊娠、不倫、売春、DVの結果の妊娠など、予期せぬ妊娠に悩む人は少なくない。兵庫県神戸市にある「小さないのちのドア」は、複雑な背景を抱える妊婦やそのパートナー、家族の相談に24時間365日向き合う公益社団法人だ。相談に乗るだけではなく、経済的に、環境的に、精神的に追い詰められた妊婦に住む場所や食事といった生活支援も提供する。今、コロナ禍で相談件数は増加している。
『小さないのちのドアを開けて 思いがけない妊娠をめぐる6人の選択』(いのちのことば社)を上梓した代表理事の永原郁子氏と施設長の西尾和子氏に話を聞いた。(聞き手:関 瑶子、シード・プランニング研究員)
※記事の最後に永原郁子さんと西尾和子さんの動画インタビューが掲載されています。是非ご覧下さい。
──「小さないのちのドア」の活動を始めるまでの経緯を、お二人の経歴も含めて教えて下さい。
永原郁子氏(以下、永原):1993年に神戸市北区でマナ助産院を開業して以来、地域母子保健に携わりながら、幸せな妊婦さんと数多く出会ってきました。一方で、妊娠したことで苦しい状況に置かれている妊婦さんの存在に気づき、2018年9月から、お困りの妊産婦さんの相談を24時間体制で受ける場所をつくりました。
西尾和子氏(以下、西尾):私はもともと行政の保健師として母子保健に従事しており、その中で、ネグレクトや産後うつの問題を抱えながら孤立しているママたちに出会うことがありました。そういうママたちにずっと関わっていきたいと考えている時に永原と出会い、「小さないのちのドア」の立ち上げに参画しました。
──「小さないのちのドア」の設置後、3年間で2万件以上の相談が寄せられたと聞いています。その数の多さに驚きました。「小さないのちのドア」にやってくる女性たちにはどのような背景があるのでしょうか。
永原:開設当初は20代の方の相談が多かったです。コロナによる緊急事態宣言以降、10代の女の子たちの「妊娠したかもしれない」という相談が増えてきました。「妊娠したかもしれない」という相談の場合、事務的な質問に対しては事務的に答えると同時に、「いのちを大切にしてほしい」「あなたの人生を大切にしてほしい」ということも女の子たちに話します。
中には、深刻な相談もあります。
例えば、妊娠後期でも妊婦健康診査を未受診の妊婦さんや、お一人で産んでしまった後の鬼気迫るような相談、陣痛がおこってからの相談などです。そういう深刻な場合、家庭の成育歴の問題に加えて、パートナーさんとうまくいっていなかったり、音信不通であったりというような深い問題を抱えた方の相談になります。
西尾:「小さないのちのドア」にやってくる女性たちの背景は、すごく複雑だと感じることがたくさんあります。
厚生労働省が発表している子ども虐待による死亡事例等の検証結果等の報告を見ると、生後0日や0カ月で死亡した子どもたちの実母さんのほとんどが妊婦健診未受診や母子手帳未交付の方々になります。
その背景には、貧困や虐待やDV、精神疾患を抱えているなど様々なものがあります。さらに、それらが複雑に絡みあっていて、解決するのはなかなか難しい。そのため、人とうまくつながれなくて孤立している女性が多いと感じています。