医療観察法病棟の本棚にあった『模倣犯』
──国立精神・神経医療研究センターの中にある「医療観察法病棟」の内部の様子についても書かれています。
里中:国立精神・神経医療研究センターはとても広いのですが、医療観察法病棟はその中でも、かなり奥の方に位置しています。偶然そういう配置になったのか、何か意図があってそのように入りにくい配置にしているのかは分かりません。まるで、迷路のような複雑な構造を潜り抜けて辿り着きます。
入り口は二重の扉になっていて、最初の扉に入ると、そこでボディ・チェックを受けます。荷物やポケットに何か隠し持っていないか、金属探知機を使いながら調べられます。そこを通過すると、2つ目の中に入る扉が開く。1つ目の扉と2つ目の扉は同時に開かないようになっています。セキュリティが厳重だなという印象を受けました。
中はとても清潔で、話し声もせず、静かでした。対象者も見かけましたが、彼らが話したりする様子はほとんど見かけませんでした。ホールのような場所に対象者がいたり、運動ができる体育館があったり、模型を作れるスペースでは、ガンダムのプラモデルがありました。水槽もありました。設備に関してはお金がかかっているという印象を受けました。
リラックス・ルームと呼ばれる、心を落ち着ける訓練をする場所があり、そこには、紫色をしたどこか不思議な光るオブジェなどがありました。医療観察法病棟の外に出た後、気持ちがザワザワすることがあったら、その部屋のことを思い出して、気持ちを落ち着けられるようになってもらうという考えでデザインされた部屋だと説明を受けました。
──医療観察法病棟の中では、対象者が中を歩き回り、対象者同士で自由に会話をしたりすることもできるということですね。
里中:そうです。以前そこにいた方に取材したときも、「中で他の対象者と仲良くなった」という話をされていました。
──中では精神疾患を題材にしたような本や漫画も読むことができると書かれていましたね。
里中:本棚があったので、どんな本が置かれているのかと見たら、宮部みゆきさんの『模倣犯』(新潮社 2005年)や、浦沢直樹さんの『MONSTER』(小学館 ビッグコミックス 1994-2001年)といった作品もありました。
狂気的な殺人が描かれている本なので「こういうものを読んでも大丈夫なのだろうか」と思ったのですが、案内してくださった先生は、「こういった題材を扱うエンターテインメントは世の中に普通にあるので、医療観察法病棟の中でシャットアウトしても、外に出たらどのみち目に入るから、制限していません」とおっしゃっていました。
近所の図書館から本を取り寄せることも可能で、その際も特に内容に関して制限はないそうです。