
(吉田さらさ・ライター)
疫病を起こす神を祀る神社
桜が咲き誇る4月、京都の神社仏閣は国内外からの観光客で大混雑だ。今回は、その中でもいくらか人出が少ないと思われる京都市北区紫野の今宮神社を訪ねてみよう。
ここは疫神、すなわち疫病を起こす神を祀る神社である。現代では異例とも言えるコロナ禍によってわれわれも疫病の恐ろしさを思い知り、それがウイルスによるものだとわかっていても、何らかの神仏にお参りして疫病退散のお願いをした人も多かったことだろう。ましてや科学的な知識がまるでなかった時代の人々が、あらゆる病気や災厄は何か目に見えない存在の祟りが原因と信じたのは無理からぬことである。
そういうわけで、京都にも祟ると信じられた実在の人物や疫神を祀る神社は数多い。前者の代表例が菅原道真を祀る北野天満宮や早良親王を祀る御霊神社、後者の代表が八坂神社と今回紹介する今宮神社だ。
八坂神社には素戔嗚尊が祀られている。この神は天照大神の弟で、粗暴なふるまいをして姉を嘆かせ、ついには天岩戸にこもらせてしまったことで知られるが、その後出雲で八岐大蛇を退治して英雄となった。そして平安時代には、インドから伝来した疫神である牛頭天王と習合して、日本の疫神として信仰されるようにもなった。京都を代表する祭の祇園祭は、牛頭天王=素戔嗚尊をおもてなしして鎮め、無病息災を祈るためのものである。
今宮神社の祭神は大己貴命(大国主尊)、事代主尊、奇稲田姫命の三柱であるが、平安時代以前より、この地には疫神が祀られていたという。正暦5年(994)年、2024年の大河ドラマ「光る君へ」で人気を博した一条天皇の御代、この地で紫野御霊会(ごりょうえ)が行われ、新しい宮という意味で「今宮」と称された。これがこの神社の創始である。
御霊会とは、疫病を流行らせる御霊を慰め、鎮めるための祭のことで、祇園祭がその代表例。今宮神社で行われた紫野御霊会も同様に大がかりな祭であった。そしてそれは連綿と今に続いている。