
(吉田さらさ・ライター)
通称「お櫛田さま」
福岡市を中心とする九州北部には古くから信仰を集めてきた由緒ある神社が多い。今回はその中のひとつ、博多総鎮守の櫛田神社をご紹介しよう。
ここでまず知っておきたいのは、博多は福岡市の別名ではなく、福岡市の中の一地域であるということだ。歴史的に見れば、福岡は黒田長政によって開かれた城下町であり、博多はそれとは別に商人の町として古くから発展してきた地域であった。明治初頭にこの福岡と博多が合併して福岡市になったという経緯なので博多=福岡市ではないし、かと言って博多と福岡市は別の街というわけでもない。
そしてさらにややこしいことに新幹線が停まるJRの駅は「博多駅」だ。福岡市の玄関口なのになぜ福岡駅ではないのか。実は二つの地域が合併して市の名称を福岡市と決める際に博多地域の住民が大反対し、それをなだめるために駅名を「博多」にしたと言われている。
それは一説であり真偽のほどはわからないのだが、博多の住民たちが、長年守り伝えて来た自分たちの文化に強い誇りを抱く人々であることは確かである。そしてそんな彼らの心の拠り所となるのがこの櫛田神社、通称「お櫛田さま」だ。JR博多駅から徒歩15分ほど。古くから現在に至るまで「博多」と呼ばれてきた市街地にあり、風格ある楼門が存在感を放っている。

この神社には珍しい見どころが数々ある。まず楼門をくぐる際に上を見ると、天井から珍しい干支恵方盤が吊るされている。内側には東西南北の方位が示され、外側には十二支の彫刻が施されており、真ん中にある矢印がその年の恵方を指している。毎年大晦日にこの矢印を回して、新しい年の恵方を指すようにするのだとか。

楼門をくぐった左手には、櫛田の銀杏(ぎなん)と呼ばれるご神木の大イチョウがあり、その下に「蒙古軍の碇石」が二つある。これは博多湾に襲来した蒙古軍が碇として使った石とされている。
拝殿の右側にある霊泉鶴の井戸も見逃せない。本殿の真下から湧き出す水で、自分、家族、親類縁者の不老長寿を念じながら飲むとご利益があるとされている。しかし残念ながら、現在は飲用が禁止されている。この水には塩分が含まれており、以前飲んだ人によれば、かなり塩辛かったそうだ。

そしていよいよ拝殿の前に立つ。立派な唐破風の左右には、貴重な風神、雷神の彫刻がある。向かって左が雷神、右が風神。風神はなぜか雷神にあっかんべーをしながら逃げて行くユニークなポーズだ。