京都の祇園祭と深くかかわる「祇園山笠」

櫛田神社 本殿 写真/Eizo/イメージマート

 拝殿の奥の本殿は三つに分かれ、正殿には大幡主命、左殿には天照大御神、右殿には須佐之男命が祀られている。大幡主命(別名大若子命)はあまり聞きなれない名だが、天照大御神の御杖代として各地を巡った倭姫命に仕えた神で、博多湾を外敵から守るために伊勢国の櫛田神社から勧進されたと言われる。この神を祀る正殿を櫛田宮、天照大御神を祀る左殿を大神宮、須佐之男命を祀る右殿を祇園宮とも呼ぶ。これが京都の祇園とどんな関係があるのかはあとで説明しよう。

 境内をぐるりと見てまわるだけでも十分楽しい神社だが、さらに魅力的なのは季節ごとに行われる大きな祭である。まずは毎年2月3日に行われる節分大祭。1月中旬から楼門、北神門、南神門の三の門に高さ5メートルもの巨大なお多福のお面が設置され、その口が境内への入り口となる。大祭当日には年男、年女、著名人などが盛大に豆まき神事を行い、境内に放たれた青鬼、赤鬼に抱きつかれると厄落としになると言われる。

 次は5月3日、4日に行われる博多どんたくだ。正式名称は「福岡市民の祭り 博多どんたく港まつり」、市内各所でさまざまなパフォーマンスが行われ、毎年200万人もの人を動員する有名なイベントである。これは厳密には櫛田神社の祭礼ではないものの、その起源であり現在もこの行事の中核となっている「博多松囃子」は櫛田神社にゆかりが深い。福神、恵比須、大黒の三福神がまず櫛田神社でお祓いを受け、福岡や博多のあちこちの場所を表敬訪問して祝賀するというおめでたいもので、国の重要無形民俗文化財の指定を受けている。

 7月1日~15日には櫛田神社の夏の大祭である祇園山笠が開催される。山笠とは他の祭でいうところの神輿や山車にあたり、博多人形師による作品などを華々しく飾り、高く豪壮な形に作り上げられる。ただし高さには限界があるので、現在は市内を渡御する比較的低い舁き山笠、鑑賞用の高い飾り山笠の2種類に区別されている。飾り山笠は、期間中、街の各所に展示される。

 この祭の起源は、京都の祇園祭と深くかかわっている。前回の今宮神社の記事(2025年3月)にも書いたように、京都の祇園祭は疫病を流行らす神である須佐之男命をもてなして鎮めるのが目的だ。そして祭としての山笠もこれと同様に疫病退散を祈る神事から発展したものである。

 須佐之男命はもともと疫神であった牛頭天王と習合してこのような性質を持つに至ったのだが、実はこの牛頭天王は、インドの釈迦の生誕地、祇園精舎の守護神なのである。そのため須佐之男命=牛頭天王への信仰を祇園信仰と呼び、京都では八坂神社付近の地名が祇園となっている。櫛田神社でも須佐之男命を祀るのは祇園社で、付近に祇園町という地名も見られる。

 10月23日、24日には、櫛田神社の秋の大祭である博多おくんちも行われる。これは、もともと11月に行われていた新嘗祭が一か月繰り上げで行われるようになったものだ。長崎のおくんちほど大々的ではないものの、牛車に引かれた神輿や獅子頭、稚児行列などが華々しく街を渡御する。

 こうして見ると、博多には本当に大規模な祭が多い。これは、目立ちたがり屋でおおらかで賑やかなことが大好きと言われる博多っ子の性格によるものだろう。ぜひ祭の時に訪れてみたいものだが、それ以外の時でも、櫛田神社には必ず立ち寄りたい。境内に、博多っ子たちの祭にかける情熱が込められた飾り山笠が展示されているからだ。

櫛田神社に奉納されている山笠 写真/grandspy_Images/イメージマート

 高さ約10m、表と裏があり、表には雄々しい武者の物語が表現されることが多く、「見送り」と呼ばれる裏側には、日本昔話やアニメを題材とした装飾が施されることが多い。通年展示されており、毎年博多山笠が始まる7月1日に違うデザインのものに替えられるとのことだ。