SNSにあふれる陰謀論をなぜ人は信じてしまうのか?(写真:Koshiro K/shutterstock)SNSにあふれる陰謀論をなぜ人は信じてしまうのか?(写真:Koshiro K/shutterstock)
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 霊感商法、陰謀論、ホストへの過剰支払い、特殊詐欺……。巷には危険な搾取や怪しげな煽動行為が横行している。なぜ人々はそうした世界に誘導されてしまうのか。そこには、実際には存在しないものを想像して現実へと投射するプロジェクションの働きがある。『イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇』(集英社新書)を上梓した愛知淑徳大学心理学部教授(専門は心理学・認知科学)の久保(川合)南海子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──「通常の投射」「異投射」「虚投射」という3種類のプロジェクションについて説明されています。この3種類はそれぞれどう異なるのでしょうか?

久保(川合)南海子氏(以下、久保):「プロジェクション」とは、さまざまなイメージを物に重ね合わせる心の働きです。その中で「通常の投射」とは、そこにある物を見たままに捉え、見たままのイメージをそこに重ね合わせることです。

 それに対して「異投射」とは、そこにある物に自分の中のイメージを重ね合わせるものの、そこに自分独自のイメージや価値などを強く意味づけて対象を捉える行為。「虚投射」とは、実際に目の前に何もないのに、まるでそこにあるかのように自分の中のイメージを周辺の物に重ね合わせて捉える行為を指します。

 今ここに、お茶の入った茶碗がありますが、これは茶碗であると見たままにイメージするのが「通常の投射」です。

 この茶碗が、実は人間国宝の職人の作った高価で貴重な茶碗であると知り、そのイメージを持ってこの茶碗と向き合うのが「異投射」です。

 そして、ここに茶碗がないのに、手のひらで茶碗を抱えるようにしてあるかのように仮定して接する。これが「虚投射」です。

「おままごと」はまさに虚投射。興味深いのは、複数の子どもが集まって一緒にままごとをするように、プロジェクションは他者と共有できるというところです。

──「プロジェクションをほとんどしない人」についても言及されています。プロジェクションの量や質には個人差がだいぶあるのでしょうか?

久保:個人差があるようです。『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』(2022年 集英社)という本を出した後に、読者の方々から「私はプロジェクションを全くしないので、この本を読んでとても不思議でした」という感想のコメントを少なからずいただきました。

 そのような方々は通常の投射はしているのだと思いますが、異投射や虚投射はそれほどしないのかもしれません。学習や記憶などさまざまな認知能力に個人差があるように、プロジェクションが得意な人や苦手な人もいるのだと思います。

──本書では、霊感商法や若い女性によるホストへの過剰な支払いに関する言及も数多くあります。こうしたケースの被害者は、むしろ自分の意思でお金を渡しているかのように見えるところが巧妙です。この手の「あなたが望んでそうしている」という状況とプロジェクションはどのような関係があるのでしょうか。