トランプ政権の誕生で、ロシアに有利な方向に向かいつつある。写真はゼレンスキー大統領(写真:ロイター/アフロ)トランプ政権の誕生で、ロシアに有利な方向に向かいつつある。写真はゼレンスキー大統領(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領は2月12日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、その後の会見で早期の停戦に向けての意欲を語った。その後もバンス副大統領、ルビオ国務長官、ケロッグ・ウクライナ・ロシア担当特使がゼレンスキー大統領と会談。ゼレンスキー大統領は対話を繰り返し行う必要があると述べた。

 ウクライナの人々は、今どのような生活を送り、どのような気持ちで状況を見ているのか。『キーウで見たロシア・ウクライナ戦争 戦争のある日常を生きる』(星海社)を上梓した、ウクライナ国営通信の日本版編集長を務める平野高志氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──ウクライナ戦争というと、砲撃の瞬間やロシア軍が民家を調べている様子、薄暗いところに民間人が身を寄せている映像などが印象的ですが、この本を読むと、そうした状況はかなり限定的な事実であることがうかがえます。

平野高志氏(以下、平野):そうした戦争らしい映像や写真が伝えるのは前線の様子であって、決して噓ではありません。しかし同時に、ウクライナ全土が常にそこまで緊迫した戦闘状態にあるわけではありません。

 私の住んでいるキーウでは、数十キロのところまでロシア軍が近づいてきたときに榴弾砲が集合住宅などに着弾し、限定的な市街戦も起こりました。

 ただ、ロシア軍が周辺から撤退すると、状況が一変しました。「戦争は続くけれど、当面キーウへの侵攻はないだろう」という認識が生まれ、今日は大丈夫、明日も大丈夫、1週間後もおそらく大丈夫と、戦争のある日常が始まったのが2022年4月から5月くらいだったと思います。

 一時避難した市民もだいぶ戻り、経済も日常にかなり近い形に戻りました。その年の夏ごろにはほとんどの飲食店も営業を再開しました。学校や会社も、オンライン形式になっていたところが、また物理的に集まるようになっていきました。

 もちろん、戦争というリスク回避から海外からの投資は激減し、大きな企業ではリストラが相次ぎましたが、中小企業に関していえば、ほぼ平時のように日常的な経営に戻っていきました。それ以降のキーウは、今の東京とほとんど変わらない日常が見られます。

 ただ、全く同じかというとそうではなくて、今日、明日、1週間後、1カ月後くらいまでの計画は立てられるけれど、その先のことはどうなるか分かりません。将来設計が立てられないのです。たとえば、「子どもを持つならもう少しタイミングを見ようか」という状況が続いています。

──テレビではウクライナの今後について、議論が盛んになされているのですか?

平野:戦争が始まってから、1つの主な政治番組しか放送できなくなりました。これは検閲だとの批判も絶えませんが、ウクライナ政府からすると、いろいろな番組の放送を許すとロシアからの情報が紛れ込む恐れがある。この検閲の必要性は与野党のコンセンサスです。

 もっとも、「あんな面白くない番組では見ていられない」という思いから、自由な言論空間が広がるYouTubeにウクライナ国民の関心がどっと移りました。そこでは政治の議論も展開できるし、文化的なコンテンツも豊富で、ユーチューバーたちが存在感を増しています。

──空襲警報がどれくらい頻繁にあるのか、警報が鳴ると人々はどう反応するかについても書かれています。