プロジェクションをうまく活用する詐欺師の手口
久保:プロジェクションは自分の持つイメージを現実世界の物に重ね合わせる能動的な働きですが、情報や状況が整うと、自動的に発動することがあります。たとえば、手品はまさにそのような状態を作り出します。
物があり得ない移動をしているように見えてしまうのは、「ここを通ったら次はここに行くだろう」と私たちが当然する推測を非常にうまく使っているからです。噓だと分かっているのに、本当のように思えてしまう。まるで魔法のようですよね。
これは、あるプロジェクションが発動する条件が揃う情報が正しく投入されると、見ている人の意識が自動的に動き出すという働きを利用しています。特殊詐欺、霊感商法、ホストへの過剰支払いなどにも同じ手法が使われています。
いかにも起こりそうな状況を作り、そうとしか思えない情報を投じていく。騙されるほうは、それによって生じる思い込みの形に誘導されて勝手にプロジェクションを始めてしまうのです。
──手品と比較すると、霊感商法やホストに対する貢ぎは発生しにくいように思います。
久保:はい。それは騙される側に文脈が形成されているからです。騙す側は、受け手側の状況に合わせて、その人がはまりやすい情報をぶつけていく。つまり、しっかりした文脈を形成させるのが、うまい詐欺師の手口です。事前に対象者の個人情報を集めた上で、相手に合わせて情報の形や内容を整えるのです。
──旧統一教会信者の脱会支援や、ホストにはまった女性のご家族の相談に乗っている団体などに話を聞くと、当事者がはまっている思い込みから抜けさせるのはとても難しいそうです。
久保:そうです。既に自分でイマジナリーな世界を作りあげているので、それを壊さなければ、思い込みから抜け出すことはできません。ただ、陰謀論の陰謀にしても、ホストの愛情表現にしても、高額な商品の除霊効果にしても、陰謀や愛情や霊の祟りは「ないこと」が証明できないから難しいのです。
──まやかしを解く方法はあるのでしょうか?
久保:あります。騙されている本人が、より広い視野を得る状況を作るのです。異なる環境で、異なる文脈の情報を得て、もう一度自分を捉え直したときに「自分が間違っている」と自覚できるかどうかです。
プロジェクションの枠組みで考えると、その環境下にいる限りは、その人を変えることはできません。極端に言えば、外宇宙のようにまったく別の世界からのアプローチのようなものが必要です。