AIが生み出す「スロップ」を拒否する動きが広がる(筆者がGeminiで生成)
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(小林 啓倫:経営コンサルタント)

ネットにあふれる「スロップ」

「スロップ(slop)」の増加が止まらない。スロップについてはこの連載でも何度か触れたが、これはAIが生み出す、低俗・低品質で大規模に出回るコンテンツを指す言葉だ。

 もともと英語で「汚水」「残飯」などを意味する言葉だったが、近年「価値のないもの」の例えとしてネット上で使われるようになり、そこからさらに転じて、「AIによる低品質コンテンツの氾濫」を指すようになった。

 このスロップ、ただのゴミならまだ良いのだが、さまざまな問題を引き起こすことが懸念されている。たとえばいま、「本能寺の変」についてのレポートを書いているとしよう。情報を集めるためにネットを検索していたら、次のような文章が見つかった。

 天正10年(1582年)8月2日未明、織田信長は京都の本能寺に宿泊していた。信長は関東の北条氏征伐から凱旋する途中であり、戦勝祝いのため多くの家臣を集めていた。そこを家臣の明智光秀が突如として軍勢を率いて襲撃し、信長は堺へ逃れようとしたが途中で捕らえられ処刑された。

 あなたはこの情報をもとにレポートを書くだろうか? さすがに本能寺の変ほど有名な出来事になれば、この文章に違和感を抱く方も多いだろう。

 その直感は正しい。これはいま筆者が「本能寺の変について勉強しているので、間違い探しの練習問題をつくって」とClaude(米Anthropic社のチャットボット)に指示して作らせたものだ。したがってこの内容をレポートに反映してしまったら、とても合格点はもらえない。

 ちなみに、3カ所間違いがあるのだが、すべて気づかれただろうか。日付が8月2日ではなく6月2日、北条氏征伐ではなく中国地方への援軍途中、信長は捕らえられて処刑ではなく自害の3つだ。

 これは意図的にスロップを生み出した例だが、意識されたものかどうかに関係なく、こうしたいい加減なコンテンツがネット上に増えることの悪影響は明らかだろう。

 発見した情報をうのみにするわけにはいかず、何重にも検証した上でないと使えない。ならば信頼できる報道機関や公的機関が発表した情報だけを頼れば良いかというと、最近はそうした組織ですら、AIが生成したコンテンツを本物だと信じてしまい、スロップを拡散してしまうという例も生じるようになっている。