スロップを拒否するという選択肢
ユーザー課金型、つまり有料の検索エンジンKagi Searchは、広告収入に依存しないビジネスモデルであることから、SEOスパムやAIによる低品質なコンテンツを積極的に排除している。
同サービスには「Small Web」という機能があり、個人のブログや非営利のウェブサイトなど、人間が書いたコンテンツを優先的に表示するよう設定が可能だ。また「レンズ」機能を使えば、プログラミングやレシピといった特定のトピックにおいて、信頼できるソースのみに絞った検索ができる。
また、Google検索結果から特定のサイトを除外できるブラウザ拡張機能「uBlacklist」は、 検索結果に混入する「いかがでしたか系」ブログや、AIで自動生成されたコピーサイト(スクレイピングサイト)を指定して非表示にできる。
有志が作成・公開している「SEOスパム用ブロックリスト」を購読することで、無数の低品質サイトを自動的にフィルタリングすることも可能だ。
もちろん、こうしたツール類でスロップ問題を完全に解決することはできない。とはいえ、スロップ・イベーダーの開発者であるブレインは、404 Mediaに対して次のように語っている。
彼自身、ブラウザのアドオンが私たちを救ってくれるとは思っていないが、スロップ・イベーダーのようなツールを開発した理由は「AIコンテンツを押し付けられることに対して、『こうやって拒否できるんだよ』という具体例を示したかった。そして、『拒否する』という選択肢が社会的・政治的にどんな形を取りうるのか、人々が想像できるようにしたかった」からだと語っている。
確かに増え続けるスロップに対して何の意思表示もしなかったら、それが悪であり、対抗すべきものという機運も生まれないだろう。スパムフィルタや広告ブロックツールがメールやウェブ広告のあり方を問うきっかけのひとつとなっているように、スロップをブロックするツールの存在も、人々の目をスロップに向ける大きな後押しとなるはずだ。
時間があれば、ご自身で上記のツールを触ってみるのも良いだろう。筆者もスロップ・イベーダーで、久しぶりに「ChatGPTがなかった世界」の感覚を思い出してみるつもりだ。
小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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