人間であるように偽装し、オンラインアンケートに回答可能なAIが登場(筆者がWhiskで生成)
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
「いまの首相を支持しますか?」や「移民受け入れについてどう思いますか?」、「この商品の満足度を教えて下さい」など、現代ではさまざまなアンケート調査が行われている。それは私たちの社会において、人々がどのような世論を形成しており、どのような趣味趣向を持っているのかといったことを把握する重要な試みだ。
しかしいま、AIの進化により、その信頼性がゼロになってしまう恐れがあるという。AIが人間のふりをして、オンラインアンケートに回答することが可能になったためだ。
研究者が開発した「オンラインアンケート回答AI」
そのAIは、ダートマス大学政治学部の准教授で、分極化研究ラボの所長を務めるショーン・J・ウェストウッドという研究者が開発したものだ。その名も「自律型合成回答者 (autonomous synthetic respondent)」。彼は詳細を「大規模言語モデルがオンライン調査研究に及ぼす潜在的な実存的脅威(The potential existential threat of large language models to online survey research)」という論文にまとめている。
まずはその内容を確認してみよう。
この「合成回答者」は特定のLLM(大規模言語モデル、生成AIの頭脳となる技術)に依存せず、OpenAI、Anthropic、Googleなどの大手AI企業から提供されるモデルを利用して開発が可能とのこと。ただ今回の論文では、ウェストウッド准教授はOpenAIの「o4-mini」モデルを使用しており、実験結果もそれに基づいている(つまり、今後より優秀なモデルが登場することで、より結果が向上する可能性があるわけだ)。
AIは2つのパートから構成されている。まずは「推論エンジン」で、これは合成回答者の頭脳にあたる部分となる。
推論エンジンは、オンラインアンケートの質問に答える前に、「一貫性のある人口統計学的ペルソナ」を確立する。要するに、具体的な年齢、性別、人種、学歴、収入、居住州などの設定を準備するわけだ。
またアンケートの回答中には、過去の回答を記憶しておき、そのペルソナに矛盾しない論理的で一貫性のある回答を生成する。たとえば、25歳以下のペルソナでは「子供はいない」と答え、35〜44歳では「子供は2人」、65歳以上では「子供は3人だが、もう成人しているのでスポーツには付き添わない」といった具合である。
もうひとつのパートは「ヒューマン・ミミクリー層」で、これは実行役となる部分だ。推論エンジンが回答を決定すると、この層が「人間らしさ」を演出しながら、アンケートに回答するのである。
この際に実行役は、アンケート側のチェック(AIによる回答であることを検出する仕組み)を回避するために、高度な擬態のテクニックを駆使する。