今の豊かな台湾につながった国際的孤立
──冒頭、中華民国は1971年に国際連合を脱退したというお話がありました。この時代は、米国をはじめとする多くの国が、中華民国との政治的な国交を断ち、中華人民共和国との国交正常化に舵を切っていきました。当時の中華民国の人々は、このような動きをどのように受け止めたのでしょうか。
野嶋:ものすごく不安だったでしょうね。台湾の人の多くは、国民党政権のもと、中国本土、すなわち大陸に攻め返し、中国領土を支配下に置くことを目標にしてきました。
ところが、1960年代後半から国際社会における台湾の地位は次第に揺らぎ始めました。このままいけば台湾、いわゆる中華民国は滅亡してしまうのではないかという不安を多くの人が抱き始めたのです。
当時の台湾は、蔣介石とその息子の蔣経国が政権を指揮していました。蔣親子も周囲の国民党幹部も、もはや中国に攻め返るのは現実的ではないと気づいていました。
国民党は、それまで膨大な予算を軍事につぎ込んでいました。その予算を、国内経済発展のための費用に切り替えると、台湾はまたたく間に劇的な経済成長を遂げました。台湾の人々の生活水準は向上し、世界経済において台湾が見過ごせない存在となったのです。
国際的な孤立を経験しなかったら、現在の豊かな台湾は実現しなかったでしょう。皮肉なことに、国際的な孤立は、台湾経済を発展させる良いきっかけだったのです。
──台湾総統選で、米国との関係強化を重視する民進党の頼清徳・副総統が新しい総統に選出されたことで、台湾と中国の関係悪化を懸念する声が増えています。「一つの中国」という原則のもと、中国が台湾に対し台湾へ軍事侵攻する可能性も指摘されています。台湾有事が起こった際、日本はどのような対応をすべきでしょうか。
野嶋:中国の正当な政府が中華人民共和国であるという点は、米国も日本も含め、多くの国が認めています。一方で、台湾が中国の領土か否かという問題に対しては明確な回答を出しているわけではなく、米国も「中国の考え方を認識する」にとどめています。
中国が「台湾は中国の一部である」と主張して台湾に武力行使をしたら、もちろん台湾は抵抗するでしょう。台湾には中華民国国軍がありますので、中国共産党率いる人民解放軍と激しい戦闘に発展するはずです。
当然のことながら、日本はそれに介入することはできません。現在の日本の法律では、自衛隊を海外派遣する目的は平和維持活動や邦人保護措置、米軍に対する物品役務の提供などに限定されていますので。
では、米国はどうか。
先ほど申し上げた通り、米国もまた、台湾が中国の領土か否かという問題に対する回答を出していません。ただ、台湾有事が発生したときに、介入しないとは言っていない。介入する権利はあるとでも言いましょうか。ただ、台湾有事に米国が介入するとしたら、在台湾米国人の保護などの理由付けが必要となります。
そして、仮に米軍が動くことになれば、台湾に近い在日米軍が戦力として投入されることになります。
ここで、もし日本近海で米国の艦艇が中国から攻撃を受けたらどうなるかということを考えてみましょう。