M87ブラックホールの輪郭。左側が2017年4月、右側が2018年4月の写真(提供:EHT Collaboration/SWNS/アフロ)M87ブラックホールの輪郭。左側が2017年4月、右側が2018年4月の写真(提供:EHT Collaboration/SWNS/アフロ)

 2024年1月20日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による日本の無人月面探査機SLIM(スリム)が月面に降り立ち、日本列島は歓喜と興奮に沸いた。2024年2月29日現在も、SLIMは月面から様々なデータの送信を断続的に続けている。それらのデータは、月の起源を明らかにする研究への活用が期待される。

 とはいえ、宇宙は恐ろしく広い。地球からわずか38万km、約0.00000004光年離れた月の詳細ですら、我々はまだ知らない。となれば、138億光年先まで広がる宇宙は、さらに謎に包まれている。

 松原隆彦氏(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所教授)は、シンプルな疑問をそのままタイトルにした書籍『宇宙とは何か』(SBクリエイティブ)を上梓した。宇宙とは何か──、松原隆彦氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──現代宇宙論では、「宇宙は膨張している」「宇宙の膨張速度は加速している」というのが通説になっていると聞きました。これは、どういうことなのでしょうか。

松原隆彦氏(以下、松原):「宇宙が膨張している」というのは、一般的な「膨張」と同じです。2つの点があったら、その点同士が遠ざかっていくという現象です。

 ただ、その膨張していく速度が「遅くなっているのか」「一定なのか」「速くなっているのか」ということが、かつて盛んに議論されていました。

 20世紀後半頃までは、宇宙の膨張速度は「遅くなっている」と考えられていました。

 ところが、1980年代頃から、どうやらそうではなさそうだ、という仮説がまことしやかにささやかれるようになりました。そして1998年から1999年にかけて、宇宙の膨張速度が速くなっていることを示す観測データが得られました。

 138億年前の誕生直後の宇宙は、めちゃくちゃな速度で膨張していました。宇宙の膨張速度は、そこから徐々にゆっくりになり、50億年前までは「遅くなっていた」ことがわかっています。その膨張速度が、50億年前に加速に転じたのです。

──なぜ宇宙の膨張速度は減速から加速に転じたのでしょうか。

松原:ダークエネルギーが増えたからです。