戒行寺の長谷川平蔵宣以供養之碑 一つのこと, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

(鷹橋忍:ライター)

今回は大河ドラマ『べらぼう』において、中村隼人が演じる長谷川平蔵宣以(のぶため)を取り上げたい。池波正太郎の時代小説『鬼平犯科帳』の主人公・鬼平のモデルとして有名な平蔵は、どのような人物だったのだろうか。

母は某氏、家女

 長谷川平蔵宣以(以下、平蔵と表記)は、上総国武射郡、山辺郡に四百石の知行を賜わった中級の旗本・長谷川家の長谷川平蔵宣雄(のぶお/以下、宣雄と表記)の子として生まれた。

 平蔵の母は、江戸幕府が編集した系譜集『寛政重修諸家譜』には「某氏」、刑務協会編『日本近世行刑史稿』には「家女」と記されている。

 瀧川政次郎『長谷川平蔵 その生涯と人足寄場』によれば、『寛政重修諸家譜』における某氏とは「農民・町人の女」を指し、家女は「家ノ子郎党の娘」を意味するという。これらこのとから、平蔵の母は「長谷川家の知行地の奉公に来た上総の女性」だと、瀧川政次郎氏は推定している。

 平蔵の生年は明らかではないが、『寛政重修諸家譜』には「寛政7年(1795)5月19日、50歳で死去」したことが記されており、没年から逆算して、延享2年(1745)生まれとされる(重松一義『鬼平 長谷川平蔵の生涯』)が、延享3年(1746)とみる説もある(丹野顯『「火付盗賊改」の正体 ――幕府と盗賊の三百年戦争』)。

 寛延3年(1750)生まれの蔦屋重三郎より、5歳、もしくは4歳年上となる。

 幼名は銕三郎(てつさぶろう)、諱は宣以。平蔵は長じてからの通称だ。

 長谷川家の上総国武射郡、山辺郡に賜わった四百石の知行地の実高は、五百石にのぼったと推知され、中級の旗本としては潤沢であったという(高橋義夫『火付盗賊改 鬼と呼ばれた江戸の「特別捜査官」』)。