(写真:AP/アフロ)

 トランプ米大統領による連邦政府のDEI(多様性=Diversity・公平性=Equity・包摂性=Inclusion)プログラム廃止の大統領令や、関連する取り組みへの法的・政治的圧力の高まりを受け、米国の主要企業が、「DEI」という言葉の使用を避け、関連部門の名称変更やプログラムの見直しを進めている。これは、政治的に敏感な用語となったDEIへの逆風をかわして法的リスクを回避しつつも、従業員の多様性確保や、包摂的職場文化の構築、といった取り組み自体は維持・継続しようとする企業の戦略的対応とみられる。

トランプ氏「DEIは逆差別」と批判

 こうした動きの背景には、トランプ大統領が2025年1月に署名した大統領令がある。トランプ氏は、政府機関のDEIプログラムを終了することに加え、民間企業のDEI策による「(逆)差別」を徹底調査し、強力な措置を講じるよう命じた。

 これに先立つ2023年、米連邦最高裁判所は、米ハーバード大学(HU)の「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」による入学選考方針を憲法違反と判断した。アファーマティブ・アクションとは、機会均等を保証するだけでなく、結果の平等を目指してマイノリティーを優遇する措置である。このマイノリティー志願者を優先的に入学させたシステムを最高裁は違憲と判断。このとき判決も、その後の企業のDEI方針に影響を与えたとみられる。

 他方、2025年1月、米首都ワシントン近郊のロナルド・レーガン空港でアメリカン航空の小型旅客機と米陸軍のヘリコプターが空中衝突した。米CNBCによると、これを受け、トランプ氏は証拠を挙げることなく、事故の原因はバイデン前政権のDEI政策にあると激しく非難した。

 トランプ氏は、「DEIが2001年以降米国で最悪となったこの航空機事故の原因であった可能性がある」と主張した。ただ、それが米同時多発テロ事件なのかアメリカン航空587便墜落事故を意味しているのかは定かではない。

 もっとも、米国のDEIコンサルタントであるジョエル・マーソン氏は、「航空機事故の原因をDEIのせいにする大統領が存在する状況では、企業が(DEIを)表立って掲げたがらないのは当然だ」と指摘する。

米企業が対応急務、DEIの言い換え模索

 DEIは今や本来の目的を越えて、政治的な対立を招く用語となり、企業にとっては訴訟や批判の対象となるリスクが高まっている。こうした状況で、各社は対応を急ぐ。