米グーグルは、「最高ダイバーシティ責任者」という役職を「Googlerエンゲージメント担当副社長」に改称した。同社はそれまでの、リーダーシップ層におけるマイノリティー比率を30%増やすという2025年の採用目標を撤回した。
だが、同社スンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)はこれを次のように補足した。
2月に開いた全社会議で同氏は「我々はグローバル企業であり、世界中にユーザーがいる。彼らにうまく貢献する最善の方法は、その多様性を反映した労働力を持つことであり、今後もそれを継続していく」と述べた。その一方で、「我々は企業として常に現地の法律を順守しなければならない」とも付け加えた。トランプ政権の意向に従わざるを得ない状況下にあることを吐露した格好だ。
米アマゾン・ドット・コムは、早々とDEI関連部門を「インクルーシブ・エクスペリエンス&テクノロジー」部門として再編していた。同社は、一部のDEIプログラムを停止し、年次報告書などからDEI関連の文言を削除した。アンディ・ジャシーCEOは、一部のDEIプログラム廃止方針について、アマゾンの継続的なコスト削減策の一環だと説明した上で、「効果があったプログラムには、一層力を入れている」と強調した。
このほか、米金融大手JPモルガンはDEIプログラム名の「公平性」を「機会(Opportunity)」に置き換え、米ウォルマートは「DEI」としていた従来の表現を「みんなのためのウォルマート」に変更した。米コンサルティング会社パラダイム(Paradigm)の調査では、Fortune 100企業における「DEI」などの用語使用は22%減少した。これに対し「帰属意識(Belonging)」などの代替の用語は59%増加した。
こうした中、トランプ政権は、政府の「反DEI政策に反している」とみなした約50社を選び出した。その最初のターゲットとなったのは米ウォルト・ディズニーだ。米連邦通信委員会(FCC)は2025年3月下旬、このメディア大手のDEI慣行について調査を開始すると同社に通知した英ロイター通信の報道。
リブランディング、DEIの次なる段階へ
一方、企業はDEIの取り組み自体を完全に放棄しているわけではないと専門家らはみている。DEIという言葉の使用を避けるものの、各社にとって多様性の価値感はこれまでと変わらないという。
多くの専門家は、今回の逆風が、形式的なDEI(実権のない役職設置など)からの脱却と、実質的な成果につながる「思慮深い」取り組みへの移行につながる可能性があると、期待感を示している。
ただ、これら取り組みを継続することによって直面する法的リスクも懸念される。
今後の課題は、企業がこの「政治・法的なグレーゾーン」の中で、いかに実質的な多様性・公平性・包摂性を継続・発展させていくかにある。用語の変更やリブランディングは、当面のリスク回避策として有効かもしれないが、それが本来の目的を形骸化することになってはならないといった厳しい見方もある。