トランプ大統領(右)もイーロン・マスク氏(左)もDEIには否定的(写真:ロイター/アフロ)

非白人や女性、LGBT(性的少数者)の人たちを一定割合で雇用したり、積極的に企業の重要ポストに登用したりする「多様性目標」が米国で大きく揺らいでいます。米国では発言力を増した保守派が「行き過ぎた多様性」を強く批判。2期目の大統領に就任したトランプ氏も「公私のあらゆる側面で人種や性別を社会的に操作しようとする政府の政策を終わらせる」と述べ、性別は男女しかないと強調しました。トランプ氏による「多様性目標との決別」を見越し、すでに有名企業は次々と目標の廃止や縮小に方向転換を始めています。いったい、何が起きているのでしょうか。DEIと呼ばれる「多様性目標」の動きをやさしく解説します。

フロントラインプレス

そもそも「DEI」とは

 日本語で「多様性目標」と呼ばれる「DEI」とは、「Diversity」「Equity」「Inclusion」の頭文字をとった言葉です。

 Diversity(ダイバーシティ)とは「多様性」のこと。年齢や性別、セクシャリティ(性的指向)、人種、国籍、民族、宗教、障がいなどの違いにかかわらず、すべての人は最適な環境で生活する権利を持っているという考え方です。

 Equity(エクイティ)とは、公平な扱い、不均衡・不公正を最小化させる「公正性」を意味しています。一人ひとりがそれぞれに違いを持つ多様な存在である以上、全員が能力を発揮するためには、個々人に最適な環境を整える必要があるというものです。

 Inclusion(インクルージョン)は、個々人の多様性が認められ、誰もがそれぞれの能力・個性に応じて社会や組織に貢献できるという「包括性」を意味しています。

 こうした考えを社会が積極的に取り入れるべきだとの風潮は、非白人のオバマ氏が米国の大統領となった2009年ごろから強まりました。女性が性的に虐げられている現状を打破しようという「Me Too」、黒人男性ジョージ・フロイド氏が警察に殺害された事件を受けて2020年に各地で起きた「Black Lives Matter」などが起爆剤となってDEIは拡大。企業や公的機関は積極的に女性や非白人を登用し、数値目標を掲げる企業が続出しました。

 また、SDGs(国連の持続可能な開発目標)においても、「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」などDEIに通じる目標が設定されています。つまり、社会の多様性を互いに認め合い、みんなが平等に暮らせる基盤を整えようという考えは、誰もが疑うことのないものになっていたのです。

 しかし、米国で逆流が始まりました。

 保守派を軸に「行き過ぎた配慮」「逆差別だ」といった批判が拡大。2024年の大統領選で「多様性」の象徴とされた民主党のカマラ・ハリス氏が敗北したころから、多様性目標への攻撃は勢いを増したのです。