トランプ大統領は40を超える大統領令に署名した(写真:AP/アフロ)

ドナルド・トランプ氏が米国の大統領に就任し、2期目の執務を開始しました。事前の予告通り、就任初日に数々の大統領令を発布し、「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again=MAGA)」というスローガンに基づく政策の実現を強く訴えています。しかし、輸入品への高関税などは具体策を先送りするなど、予想とは異なる部分もあります。トランプ氏の狙いはどこにあるのでしょうか。「トランプ大統領令」をやさしく解説します。

西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス

移民流入の南部国境地域に非常事態宣言

 トランプ氏は1月20日、首都ワシントンの連邦議会議事堂で行われた就任式で宣誓を行ない、第47代米大統領に就任しました。就任演説でトランプ氏は「近年、わが国は大きな苦痛を受けた」として、アメリカの自由、主権、独立の回復を強調。「未来はわれわれのものだ。われらの黄金時代が始まる」と強調しました。

 その数時間後、トランプ氏はワシントンのアリーナ会場で支持者を前に数々の大統領令に署名するパフォーマンスを見せた後、ホワイトハウスでも署名を続けました。大統領令には法的拘束力のある「行政命令」と、拘束力のない「大統領覚書」などがありますが、トランプ氏が初日に署名した大統領令は両方合わせて40本以上に上ります。

 トランプ氏が最も力点を置いたのは移民政策です。大統領選では有権者に向けて移民対策の強化を訴え、勝敗を左右する7つの「激戦州」すべてで勝利を収めました。就任演説では、建国当初に在留外国人を強制退去させる権限を大統領に与えた「敵性外国人法」(1798年)を現代に適用し、犯罪者らを追放する考えを示しました。

図:フロントラインプレス作成
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 一連の行政命令では、犯罪者やテロリストが侵入し、米国の主権が侵害されているとして、米国の南部国境地域に非常事態宣言を発令しました。国防長官に対しては軍を国境地域に派遣し、不法移民の収容施設や輸送機関などの運用に必要な支援を行うよう命じたのです。また、大統領1期目に手掛けたメキシコ国境における壁建設の促進、無人航空機による国境管理なども盛り込みました。

 また、バイデン政権が移民に寛容な政策を進めた結果、不法移民が米国民の生活を脅かし、スパイ活動やテロ準備活動を行なっているとして、司法省と国土安全保障省がタスクフォースを設置して犯罪捜査を強化し、犯罪者の排除にあたる方針を示しています。摘発した犯罪者らを国外に追放するまでの間に収容する施設の拡充も指示しました。

 トランプ氏はこれまで、1千万人を超すと言われる不法移民を大量に強制送還すると訴えてきました。ただ、その具体策やいつまでに達成するかのめどまでは、初日の大統領令に示されていません。トランプ氏は大統領1期目にも不法移民の大量強制送還を掲げましたが、目標に届かなかった経緯もあります。

 米国には移民の子であっても米国内で生まれた子どもは米国民と認める憲法の規定がありますが、トランプ氏は不法移民の子どもを米国民と認めない措置を取る行政命令にも署名しました。憲法論争に発展するのは確実で、すでにいくつかの州からトランプ政権を訴える動きが出ています。

 さらに、受け入れるだけの余裕がないとして、難民認定制度に基づく入国の凍結も打ち出しました。米国民を第一に考えるという理念の下、米国の移民政策は一気に不寛容さを増しました。