関税は「最も美しい言葉」
日本を含め世界各国が注目してきた関税などの貿易政策は「アメリカ第一の貿易政策」と題する大統領覚書に示されました。
トランプ氏は米国の産業の優位性や安全保障を強化し、労働者や経営者の利益を確保するための貿易政策を推進すると訴えています。関係閣僚に貿易赤字の原因究明、関税を徴収する「外国歳入庁」設立に向けた調査、不公正な貿易慣行や為替操作の究明、既存の貿易協定の見直しなどを指示しました。
トランプ氏が25%の関税を課すとしたメキシコとカナダに関しては、米国・メキシコ・カナダ協定が国内経済に及ぼす影響を調査するよう命じました。大統領選の選挙戦で60%の関税を課すとしてきた中国に関しては、既存の協定を精査し、不正行為がないか調べる姿勢を示しました。そのうえで、中国からの輸入品には2月1日から10%の追加関税を課すことを検討していると記者会見で明らかにしています。
一方、バイデン前政権が導入した中国発の動画アプリTikTok禁止法の施行を75 日間停止する行政命令も発出し、硬軟両様の構えを見せています。
結局、高関税を就任初日から発動するのは避けました。トランプ氏は「関税」を「最も美しい言葉」と称して米国の利益拡大に最大限活用する姿勢ですが、各国からは一方的な保護主義姿勢に批判が続出しています。
米国内のインフレを助長する可能性もあり、慎重に対処する姿勢が見られます。高関税をてこに相手国との交渉を有利に運ぼうというのが基本姿勢のようです。
就任初日に異例の数に上った大統領令を見ると、バイデン前政権に対する厳しい批判が目立ちます。トランプ氏は2020年の大統領選の敗北を覆そうとしたなどの罪で起訴されましたが、これをバイデン政権が司法を政治的武器として使ったと主張し、連邦政府の武器化を禁ずる行政命令も発布しました。「重罪犯」として就任した史上初の大統領となったトランプ氏が、自らの政権の正当性を証明することに腐心する様子がうかがえます。
しかし、例えば国境の壁建設やパリ協定離脱などはトランプ氏が1期目に掲げ、バイデン氏が覆し、またトランプ氏が再開するという道をたどっています。極端さが目立つ米国第一主義は、米国民や国際社会から確固たる支持を得ることができるのでしょうか。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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