「エネルギーを解き放つ」

 トランプ氏が得意とする経済分野では、エネルギー政策に重点が置かれました。「バイデン政権の間違った政策や価格高騰などにより需要に見合うエネルギーが供給されていない」との理由で、エネルギー非常事態宣言を発したのです。

署名に使ったペンを観衆に投げるパフォーマンス、まるでロックスター(写真:ロイター/アフロ)

「アメリカのエネルギーを解き放つ」と題した行政命令では、関係省庁に石油、天然ガス、石炭のほか、重要鉱物や原子力を含めあらゆるエネルギー資源の開発を妨げる規定を見直すよう指示しました。天然ガスなどの自然資源が豊富なアラスカの開発を促進する行政命令も発出しています。経済や軍事面の安全保障を確保するほか、関連産業の雇用創出もトランプ氏の狙いです。

 こうした化石燃料の開発は、温室効果ガスの排出削減を進める国際的な気候変動対策の流れに逆行するのは必至です。しかし、トランプ氏はそうした国際社会の潮流に背を向け、世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度未満に抑えることを目標に掲げるパリ協定からの脱退を宣言する行政命令にも署名しました。米国は中国に次いで温室効果ガス排出量が多く、世界各国がトランプ氏の政策に懸念を抱いています。

 トランプ氏のエネルギー政策には政治的背景もあります。バイデン氏はクリーンエネルギーに大規模投資を行なう「インフレ削減法」の制定や電気自動車の将来的な義務化を打ち出し、気候変動対策に積極姿勢を見せました。トランプ氏は、エネルギー転換に影響を受けやすい製造業や自動車産業などに支持層を広げてきただけに、前政権とは大きく異なる政策を進める考えです。