イスラエル寄りの姿勢を崩さないトランプ氏(写真:AP/アフロ)イスラエル寄りの姿勢を崩さないトランプ氏(写真:AP/アフロ)

 2025年1月19日、イスラエルのネタニヤフ政権とイスラム主義組織ハマスの停戦が発効した。停戦案はバイデン前米大統領が昨年5月に提示したものと大差ない。ネタニヤフ首相は、アメリカがイスラエルに強く出られない足元を見透かし、のらりくらりとバイデンの要求をかわし続けた。

 ハマスが停戦を受け入れたのは、トランプ新大統領が就任前から「人質を解放しないと地獄をみるぞ」とハマスを脅し、ネタニヤフ首相にも露骨な圧力をかけたからだ。トランプ氏は一方で、次期駐イスラエル米大使にキリスト教福音派の牧師出身で、親イスラエル強硬派の大物ハッカビー氏を指名するなど、イスラエル支持の姿勢を崩さない。

 アメリカとイスラエル、両国の同盟関係はなぜこれほど強固なのか。なぜ超大国アメリカの方が中東の小国イスラエルにこれほど気を使うのだろうか。『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』(河出書房新社)を上梓した広島修道大学教授(専攻は国際政治・報道)の船津靖氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──旧約聖書と新約聖書の関係について教えてください。

船津靖氏(以下、船津):旧約聖書はユダヤ人の聖書です。ユダヤ人が紀元前6世紀の有名な「バビロン捕囚」頃から前2世紀頃までに編集した文書で、ヘブライ語で書かれています。天地創造、エデンの園のアダムとエバ、ノアの箱舟といった日本人にもよく知られた物語が書かれています。

 これに対して新約聖書は主に紀元1世紀後半にギリシア語で書かれました。イエス・キリストが新しい教えを広め、エルサレムで十字架にはり付けられて処刑された後、死から復活する物語を書いた4つの福音書と、原始キリスト教をローマ帝国に広げようとした使徒パウロの書簡で構成されています。

「旧約聖書」や「新約聖書」はキリスト教徒側からの呼び方です。「新約」はユダヤ人にとっては聖書ではありません。でも、キリスト教徒にとっては「旧約」も「新約」もどちらも聖書です。キリスト教徒から見ると旧約聖書は、神と選民ユダヤ人の間で交わされた古い約束です。旧約は神が選民ユダヤ人だけを救済するという約束です。

 キリスト教徒は、旧約聖書を救世主(メシア、キリスト)であるイエスの福音によって終わった約束と考えます。イエスの死からの復活を信じる人は、世界の終わり(終末)に復活して永遠の命を得る。福音を信じた人はすべて、神との新しい救済の計画に入るのです。

──イエスもユダヤ人ですよね?

船津:はい、ユダヤ人です。イエスはイスラエル北部のガリラヤ湖近くの山村ナザレで、大工(石工)の息子として生まれ、ユダヤ教徒として育ちました。

 イエスはユダヤ教の改革者という意識でした。当時、ユダヤ国家があったパレスチナはローマ帝国に支配され、エルサレム神殿の祭司や官僚が占領軍のローマ帝国と結託して人々を搾取していました。「これは本当の神の教えではない」と考えたイエスが新しい教えを述べたのです。

──「ユダヤ人」の定義について、冒頭で説明されています。ユダヤ人とは、どのような人を指すのでしょうか?