ユダヤ人に負い目があるアメリカ人

船津:3つめは「前千年王国終末論の黙示思想」です。

 キリスト教福音派は、腐敗したこの世界が終わり、救世主(メシア)イエスがこの世に再臨して新しい「千年王国」がエルサレムに出現すると信じます。

 また、イエス再臨の兆し、または前提条件として、ユダヤ人が故国の聖地に帰還することが大切だという思想があります。ユダヤ人がイスラエルという国を作り、そこに戻り、そこで存在を強めていけば、イエスが再臨する時期が早まるとも考える。つまり、キリスト教徒の救済のための道具として、ユダヤ人の聖地帰還を支援しているのです。

 4つめは「イスラエル(ユダヤ)ロビー」です。

 アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)が有名です。「親イスラエルではない」とAIPAC(エイパック)に睨まれた議員は、選挙の対抗馬を応援され、落選させられることがあります。イスラエル・ロビーは連邦議会に強い影響力があり、AIPACの年次総会には、民主・共和両党の歴代大統領や有力閣僚が参加します。

 5つめが「反ユダヤ主義・ホロコーストの罪責感」です。

 かつてユダヤ人はアメリカで相当な差別を受けてきました。どんなにお金を持っていても、ユダヤ人はホテルに泊めてもらえない、ゴルフのクラブに入れてもらえないといった扱いを受けました。

 成績優秀な人が多く、一流大学に進学するユダヤ人は数多くいますが、戦前は入学を制限されました。白人至上主義団体のクー・クラックス・クラン(KKK)も、かつてはユダヤ人をリンチする事件を起こしました。

 ユダヤ人同士の間にも差別がありました。たとえば、先にアメリカに移住したユダヤ人が、後からアメリカに来るユダヤ人に対する移民制限を支持することもありました。

 戦前のアメリカはヨーロッパからでも西欧・北欧系以外の東欧・南欧からの移民を歓迎せず、ユダヤ人の移民は厳しく制限されました。ユダヤ人移民をもっと受け入れていたら、ホロコーストの犠牲者はもっと少なかったはずです。

 なぜアウシュヴィッツを爆撃しなかったのか、なぜ収容所に向かう鉄路を爆破しなかったのかと問う声は今も続いています。

 ホロコーストの反省が高まってきたのは1960年代以降です。今では、ワシントンDCをはじめ、全米各地に、ホロコーストの歴史資料館があります。アメリカ人はユダヤ人に負い目があるのです。