ユダヤ人の定義とは
船津:「旧約聖書の民」であり、「ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の犠牲者」です。そういう民族意識、帰属意識(アイデンティティ)を持つ人々です。
ユダヤ人は旧約聖書を編集し、1世紀にローマ帝国に反乱を起こして敗北し、エルサレム神殿を破壊されて故国を失いました。地中海沿岸やヨーロッパに散り散りになり、西洋キリスト教社会で差別・迫害されました。
第二次大戦では、ナチス・ドイツによって600万人もの人が無差別に殺害されました。当時、ヨーロッパにいたユダヤ人が900万人ですから、3分の2が殺されたということです。
同時に、アメリカなどに亡命した人や移民になった人もいました。1948年にユダヤ人はイスラエルの独立を宣言し、敬虔なキリスト教徒で聖書に精通したトルーマン米大統領がただちに承認しました。
現在、全世界におよそ1600万人のユダヤ人がいて、そのうちざっと700万人がイスラエルに、600万人弱がアメリカに住んでいます。
相対性理論のアインシュタイン、『資本論』のマルクス、精神分析のフロイト、『変身』で有名な小説家のカフカをはじめ、著名なユダヤ人がたくさんいます。
ユダヤ人には肌の白い人も褐色の人もいて身体的な特徴はさまざまです。ユダヤ人は人種ではなく、まず「ユダヤ教徒」という宗教的な分類で定義される人々です。西洋キリスト教社会では、「キリスト教徒ではない異教徒」「オリエント(中東)から来たよそ者」と見られます。
生まれた男児の包皮を切る「割礼」も
──ユダヤ人をどうやって見分けるのでしょうか。
船津:キリスト教国では、子どもの頃からみな教会に行き、クリスマスも祝う。でも、ユダヤ教徒は教会員になれず、異教徒イエスの誕生を祝うクリスマスの行事にも参加できません。ユダヤ人であることはすぐにわかります。
ユダヤ教にはいくつもの決まり(戒律)があります。安息日が金曜の日没から土曜の日没まで。休んでよい日というより、仕事をせず休まなければならない日です。
旧約聖書の天地創造で、神様が7日目に休んだことに対応しています。豚、エビ、カニなどを食べない食事規定もあります。男児が生まれて8日目に性器の包皮を切る「割礼」もあります。
安息日には異教徒と一緒に働くことができないため、外敵と共に戦うことに困難が生じます。よく「仲が悪くなると一緒にメシを食え」と言いますが、食事規定のため一緒に食事をすることも難しい。つまり、ユダヤ教のルールはユダヤ民族が周辺の異民族の中に消えてゆかないための制度、社会的な装置なのです。