イスラエルとの「特別な関係」を支える5つの要因
──アメリカとイスラエルの「特別な関係」を支えるアメリカ側の5つの要因が挙げられています。
船津:1つめは「聖地・聖書の民への親近感」です。教会に行く人が減ってきているとはいえ、アメリカ人は全般的にまだ宗教心が強い人々です。大人になって信仰心を失っていく人も、子供の頃は親と一緒に教会に通っています。
聖書を読めば、登場人物はほとんどユダヤ人で、ダビデ王やソロモン王はヒーローです。聖書の中の物語はファンタジーの要素の強い血沸き肉躍るロマン。多くのアメリカ人は聖書の物語に幼い頃から親しんでいます。
キリスト教が誕生したのは今のパレスチナ/イスラエルです。政治的に中立な地理的な呼称は、エルサレムを中心とする「南レヴァント地方」です。「自分の住んでいる街よりもエルサレムの方をよく知っている」とあるイギリス人が書いていました。キリスト教徒は、エルサレムのガリラヤ湖、ベツレヘムといった地名にあこがれがあります。

2つめは両国の「建国神話」の類似性です。旧約聖書の出エジプト記(エクソダス)では、古代エジプトのファラオ(王)の奴隷だったユダヤ人の大集団が自由を求めて脱出し「約束の地」カナン地方(南レバント地方)に移住します。この建国物語はアメリカの建国物語と重なります。
アメリカの場合は、イギリスのピューリタン(清教徒)が英国王の宗教弾圧を逃れ北米に植民しました。米東北部マサチューセッツ州などでエリートになったのは英国教会(アングリカン・チャーチ)から弾圧された人たちです。ピューリタンにとってのイギリス国王は、出エジプト記の悪役である古代エジプトのファラオです。
ハリウッドの映画『十戒』『神の王 エクソダス』などで、預言者モーセがユダヤ人の行く手を阻む「葦の海」を真っ二つに割り、海を越えて約束の地に入る場面をご存じの方も多いでしょう。
これをピューリタンに置き換えると、葦の海が大西洋で、その先にあるアメリカ新大陸が約束の地です。かつてアメリカ人は「Our American Israel」と言いました。アメリカはわれらが新しいイスラエルなのだという意味です。
出エジプト記には、移民や難民、孤児や身寄りのない女性を虐待してはならない、高い利子を取ってはならないといった弱者を守る、現代ならリベラル派が強調するような内容がたくさん含まれています。つまり、アメリカのリベラル派、民主党の政治思想と相性がいい。だからバラク・オバマ元大統領の著書のタイトルは『約束の地 大統領回顧録』なのです。