
1月20日、第2期トランプ政権が発足した。関税を振りかざすトランプ氏の姿に、身構えている日本企業は少なくないはずだ。サプライチェーンの再構築を検討している企業もあるかもしれない。関税だけではない。環境規制、ビッグテック規制などさまざまな分野で、バイデン政権からの方向転換が見込まれる。
「予測可能性が低い」と言われるトランプ政権に、日本企業はどのように向き合うべきか。ダイナミックに変化する米国の姿を30年にわたって、米国のビジネス現場から観察してきたEY税理士法人 シニア・テクニカル・アドバイザーの秦正彦氏に聞いた。
自由貿易の枠組みは大きな曲がり角に
──今後4年間続く第2期トランプ政権の経済・通商政策の方針について、どのような方向が打ち出されるでしょうか。
秦 正彦氏(以下、敬称略)トランプ政権の財務省や商務省、米通商代表部(USTR)といった経済官庁の中枢に、今の姿のままの自由貿易の支持者はまずいません。その政策コミュニティーの中では、「フリートレード」という美名のもとで知的財産を窃取する、あるいは自国の都合のいいようにルールを捻じ曲げて利用する国があるという基本認識が共有されています。もちろん、念頭にあるのは中国です。
従って、あくまでも米国から見てですが、アンフェアな振る舞いを抑制しなければならない。こうした考え方が根底にあります。
──「自由貿易は世界を豊かにする。みんなで自由貿易を目指そう」という言説は、すでに力を失ったように見えます。
秦 1期目のトランプ政権は中国製品に関税を課し、バイデン政権はその路線を踏襲しました。第2期トランプ政権では、より中国の出方次第で強力な手段が用いられるでしょう。
新しい世界の経済秩序がどのようなものになるか、まだ具体像ははっきりしませんが、米ドルと各国通貨の交換レートを固定するブレトンウッズ体制以来、関税貿易一般協定(GATT)、世界貿易機関(WTO)に至る自由貿易の枠組みは、大きな曲がり角に差し掛かっているように思います。
──1期目のトランプ政権が実施した減税、いわゆるトランプ税制が延長されるかどうかも注目されています。