尹錫悦大統領へ抗議する人々が作成した投獄された尹大統領を模した人形(写真:ロイター/アフロ)
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 国家の最高権力者である大統領が国会の弾劾決議により執務停止に追い込まれた韓国は、いままさに「無政府状態」に陥っている。

 巨大野党が掌握する国会は、大統領や首相をはじめ30人近い政府高官をも弾劾したため、立法府による行政府の機能マヒが現実化している。さらに捜査機関と司法府は類例のない現職大統領の逮捕に血眼になっている。これに対し、与党議員たちは大統領官邸に集結、尹大統領に対する逮捕令状の執行を肉弾防御している。

 また与野党双方の支持者はそれぞれ大挙して街頭で激しいデモを繰り返しており、いつ暴力事態へ発展しても不思議ではない状態となっている。

 結局、6時間余りで「失敗」に終わった戒厳令によって、前任の文在寅大統領の政権時代から先鋭化していた保守と進歩(革新)の対立は、韓国社会を前例のない泥沼へ追い込んでしまった。

逮捕令状発行は適法だったのか

 現在、尹錫悦大統領は憲法裁判所の「弾劾審判」と高位公職者不正捜査処(公捜処)による「内乱容疑」捜査を同時に受けている。まず、憲法裁の弾劾審判は2回の弁論準備期日(裁判官が訴訟当事者を呼んで主張と証拠などを聴取し、争点を整理する手続き)が行われ、1月14日から本格的に始まる。現在のところ2月5日までに計5回の弁論期日が決定されているが、5回の弁論期日以後、さらに弁論期日を補充する必要があるかを再び判断するというのが憲法裁の立場で、早ければ2月中にも結果が出ると見られている。

 尹大統領の内乱容疑に対する捜査は、文在寅政権時に検察を無力化するために新設された捜査機関である公捜処が担当している。初動段階では、検察、警察、公捜処といった全捜査機関が動いたが、公捜処がその設立根拠となる公捜処法にある「公捜処が事件移管を要求する場合、警察と検察はこれに従わなければならない」という条項を示し、事件を移管させたのだ。

 そして公捜処は尹大統領に対して3回にわたって出頭を要請したのだが、これが受け入れられないと見て逮捕令状を申請。昨年末、ソウル西部裁判所が令状を発行した。

 これに対して尹大統領側は、「公捜処は内乱罪を捜査する権限がない(文在寅政権で進められた検察・警察捜査権の調整によって、内乱罪の捜査は検察から警察に渡された)」とし、「令状の発行は適法でない」と対抗した。