つまり、公捜処が大統領の権力乱用を捜査しながら内乱罪の疑いで逮捕令状を請求すること自体が違法であり、これを令状を発行した西部地裁も多分に政治的な判断をしたという見方が法曹界にもあるのだ。
しかも本来、公捜処の管轄裁判所はソウル中央地裁である。これまで公捜処の起訴と令状請求のいずれも中央地裁で行われた。ところが、尹大統領の逮捕状申請はなぜか西部地裁に持ち込まれた。これには令状を発行した西部地裁の判事と公捜処長が、いずれも「ウリ法研究会」という進歩判事たちの勉強会出身だからだったと見られている。そのため、違法であるはずの逮捕状請求に西部地裁が応じたのは政治的な判断によるものだったのではないか――と尹大統領側と「国民の力」側は主張するのだ。
可決された弾劾訴追案から「内乱罪」を削除?
共に民主党が主軸となって立ち上げた「国会弾劾訴追委員会」(以下国会側)が憲法裁での弾劾審判を迅速に処理するために弾劾訴追案の内容を変更しようとしている点も混乱を加速させている。
昨年12月14日に国会で可決された弾劾訴追案には、尹大統領に対する弾劾の主な理由として「違憲的な戒厳令宣布」と「内乱(未遂)罪」の2つを明記した。だが現在国会側は、内乱罪を除いて、戒厳令宣布の違法性に対してのみ審判を受けるべきだと主張している。
内乱罪とは刑事事件で立証が難しく、呼ばなければならない証人も多いため、審判が長期化する可能性がある。そうなると問題になってくるのが、李在明(イ・ジェミョン)共に民主党代表が被告になっている選挙法違反事件の控訴審だ(一審では懲役1年執行猶予2年の有罪判決が下されている)。こちらの裁判で李在明代表の懲役刑の有罪が確定すれば、国会議員の立場を失い、今後10年間被選挙権が剥奪され、次期大統領選への出馬も不可能になってしまう。
李在明氏とすれば、この控訴審の判決が下る前に弾劾審判の結論を出してもらわなければならない。そのためには弾劾訴追案に盛り込んだ内乱罪を撤回する必要があると判断したのだろう。
これに対して、憲法裁では弾劾訴追案の変更について明示した条項がないとし、判事らが判断すると決定したが、もし〈内乱罪を除く〉という国会側の要求を容認することになれば、保守支持層には不公正なものに映るだろう。